0033)低き雲 青き空とで 野を分きて 天の何処に 日の隠るらむ
低き雲 青き空とで 野を分きて 天の何処に 日の隠るらむ 『低く垂れ込めた雲と、まるで不似合いな青空との二つが野原を分けている、台風間近のこの天空の、一体どこに太陽は隠れているのだろうか?』 ← 前章へ戻る 『うた [...]
0033)ひくきくもあおきそらとでのをわきてあめのいづこにひのかくるらむ
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0032)わくらばに 月見る事も 無かりけり 見つべき物も 他に在らなくに
わくらばに 月見る事も 無かりけり 見つ/満つべき物も 他に在らなくに 『そういえば、時折月を眺めることも、久しくせずにいたものだなあ。月以外には、特に見るべきものも、満ち足りた何かも、あるわけでもないというのに。 [...]
0032)わくらばにつきみることもなかりけりみつべきものもたにあらなくに
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0031)会はで猶 斯くは恋しき 縁在れば 慰みてむや 泡沫の人
会はで(泡で)猶 斯くは(描くは)恋しき 縁(絵に)在れば 慰みてむや 泡沫の人 『会うことがなくてもなおもこんなに恋しいのは、深い縁があればこそ。もやもやとした私の気持ちを和らげてくれませんか、我が愛しき恋人よ。 [...]
0031)あはでなほかくはこひしきえにあればなぐさみてむやうたかたのひと
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0030)有りぬべき 夢の形の 夜にも無み 寄する恨みも 漸凪ぎぬらし
有りぬべき 夢の形の 世(夜)にも無み(浪) 寄する恨み(浦曲)も 漸凪ぎぬらし(泣き濡らし) 『当然あるものと思っていた理想の姿が、現実の世界にもなく、このところは夢に描くことさえもなくなってしまったので、海辺に [...]
0030)ありぬべきゆめのかたちのよにもなみよするうらみもややなぎぬらし
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0029)有らざりし 事ある今と 有りつべき 事無き先と 何れ勝れる
有らざりし 事ある今と 有りつべき 事無き先と 何れ勝れる 『今までになかった新たな事柄が眼前に立ちはだかるたびごとに、文句を言う人はいるけれど、今までずっとあり、これからも当然あるだろうと思っていた事柄が次第次第 [...]
0029)あらざりしことあるいまとありつべきことなきさきといづれまされる
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0028)我は唯 生きて侍りと つれなくて 書くもをかしき 折折の文
我は唯 生きて侍りと つれなくて 書くも/斯くもをかしき 折折の文 『ただ「自分は健在ですよ」というだけのこと・・・何とも素っ気ないこんな手紙、書くのもおかしなものではあるが、折りに触れて舞い込むだけで、妙に趣ある [...]
0028)われはただいきてはべりとつれなくてかくもをかしきをりをりのふみ
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0027)良し悪し 綾目も知らず 戯れて 頓て愛しき 猫に左右無し
良し悪し 綾目も知らず 戯れて 頓て愛しき 猫に左右(双)無し 『良いも悪いも何もわからずにじゃれあいふざけているだけなのに、それだけで可愛い猫というやつには、善悪の価値判断もなければ、並び立つ愛玩動物も他にいない [...]
0027)よしわろしあやめもしらずたはぶれてやがてかなしきねこにさうなし
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0026)無下の如 地下に縛せる 主のみ 無期に守りて 居ぬ時の無し
無下の如 地下に縛せる 主のみ(の身) 無期に見守り(守り)て 犬(居ぬ)時の無し 『最低の存在であるかの如く、地べたに鎖で自分を繋ぐ主人の身を、その人の事ばかりを、じっと見守り、あるいは守り、いつも側に居て、しか [...]
0026)むげのごとぢげにばくせるあるじのみむごにまもりていぬときのなし
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0025)口の端に 宿る命も 有りと為ば 詠みに向かはむ 永久の歌
口の端に 宿る命も 有りと為ば 詠み(黄泉)に向かはむ 永久の歌 『人口に膾炙することで生まれる生命というものもこの世にはあるのだと考えるならば、悠久の時を越えて語り継がれる名歌こそは、死による滅却に対抗し得る永遠 [...]
0025)くちのはにやどるいのちもありとせばよみにむかはむとこしへのうた
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0024)死の町か 思ひ出村か 墓と言ふは 問へど答ふる 人の影なし
死の町か 思ひ出村か 墓と言ふは 問へど答ふる 人の影なし 『墓所とは果たして、死者の来世の住み家なのか、それとも弔問客の思い出だけが眠る地なのか。問いを投げても答えを返してくれる人は誰もいない・・・少なくともこの [...]
0024)しのまちかおもひでむらかはかてふはとへどこたふるひとのかげなし
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0023)言はねばや 離れとし離れる 日々の果て 猶枯れ果てぬ 君の面影
言はねばや 離れとし離れる 日々の果て 猶枯れ果てぬ 君の面影 『はっきり「好き」と告白しなかったせい、でしょうか、どんどん疎遠になってしまった日々の果てに、今なお枯れ果てることのないあなたの面影を、胸に抱いて生き [...]
0023)いはねばやかれとしかれるひびのはてなほかれはてぬきみのおもかげ
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0022)夏は唯 生くがいみじき ものゆゑに 秋行かで詠む 歌も無かめり
夏は唯 生く(行く)がいみじき ものゆゑに 秋行かで(飽き行かで)詠む 歌も無かめり 『夏というのは、ただひたすら生きているだけで素晴らしい季節であって、それが去ってしまうのがひどく悲しいものだから、未だ秋になるこ [...]
0022)なつはただいくがいみじきものゆゑにあきゆかでよむうたもなかめり
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0021)長き夜を 飽かで明かしし 人を無み 一人向き合ふ 閨の暗闇
長き夜を 飽かで明かしし 人を無み 一人向き合ふ 閨の暗闇 『長い夜も、飽きることなく二人で明かしたあの人は、今はもういないので、一人こうして寝室の暗闇と向き合っている私なのです。』 ← 前章へ戻る 『うたよみじ [...]
0021)ながきよをあかであかししひとをなみひとりむきあふねやのくらやみ
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0020)世の為と 勇みて為すも 我の為 問ふな誰が為 皆己が為
世の為と 勇みて為すも 我の為 問ふな誰が為 皆己が為 『世の中のために、と力みかえって何かをしても、よくよく見ればそれは自分自身のためにしている事だったりする・・・が、「あなたは誰のためにそれをしているのですか? [...]
佳日
佳日 太宰治 これは、いま、大日本帝国の自存自衛のため、内地から遠く離れて、お働きになっている人たちに対して、お留守の事は全く御安心下さい、という朗報にもなりはせぬかと思って、愚かな作者が、どもりながら物語るささやかな [...]
0020)よのためといさみてなすもわれのためとふなたがためみなおのがため
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0019)我はまだ 斯かりと知るや 忘れしや 会ふも中中 忘れじの人
我はまだ 斯かりと知るや 忘れしや 会ふも中中 忘れじの人 『私はいまだにこうして、あなたへの想いを抱えたまま生きている、などと、知っているのだろうか、それとももう私のことなど忘れてしまっただろうか・・・あぁ、今も [...]
千代女
千代女 太宰治 女は、やっぱり、駄目なものなのね。女のうちでも、私という女ひとりが、だめなのかも知れませんけれども、つくづく私は、自分を駄目だと思います。そう言いながらも、また、心の隅で、それでもどこか一ついいところが [...]
0019)われはまだかかりとしるやわすれしやあふもなかなかわすれじのひと
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座興に非ず
座興に非ず 太宰治 おのれの行く末を思い、ぞっとして、いても立っても居られぬ思いの宵は、その本郷のアパアトから、ステッキずるずるひきずりながら上野公園まで歩いてみる。九月もなかば過ぎた頃のことである。私の白地の浴衣も、 [...]
0018)得るほどに 失する想ひの 恐ろしさ 然れど止まれぬ 泡沫の恋
得るほどに 失する想ひの 恐ろしさ 然れど止まれぬ 泡沫の恋 『好きになって、わがものにして、でもまた冷めて、失って・・・それを思えば怖いのに、わかっていてなお止めようがない・・・束の間だけとは知りながら、恋の力は [...]
葉桜と魔笛
葉桜と魔笛 太宰治 桜が散って、このように葉桜のころになれば、私は、きっと思い出します。――と、その老夫人は物語る。――いまから三十五年まえ、父はその頃まだ存命中でございまして、私の一家、と言いましても、母はその七年ま [...]
令嬢アユ
令嬢アユ 太宰治 佐野君は、私の友人である。私のほうが佐野君より十一も年上なのであるが、それでも友人である。佐野君は、いま、東京の或る大学の文科に籍を置いているのであるが、あまり出来ないようである。いまに落第するかも知 [...]
0018)うるほどにうするおもひのおそろしさされどやまれぬうたかたのこひ
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ひょっとこ
ひょっとこ 芥川龍之介 吾妻橋の欄干によって、人が大ぜい立っている。時々巡査が来て小言を云うが、すぐまた元のように人山が出来てしまう。皆、この橋の下を通る花見の船を見に、立っているのである。 船は川下から、一二艘ずつ [...]
0017)火を点けて 消しもせで行く 想ひ人 見ずもあらばや 想ひ消たなむ
火を点けて 消しもせで行(生)く 想ひ人 見ず(水)もあらばや 想ひ消たなむ 『私の心に燃えるような想いを抱かせておいて、その熱い気持ち、消してくれもせぬまま、平然と生きているあの人・・・できればその姿を見ずにいた [...]
0017)ひをつけてけしもせでいくおもひびとみずもあらばやおもひけたなむ
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心の王者 / 困惑の弁
心の王者 太宰治 先日、三田の、小さい学生さんが二人、私の家に参りました。私は生憎加減が悪くて寝ていたのですが、ちょっとで済む御話でしたら、と断って床から抜け出し、どてらの上に羽織を羽織って、面会いたしました。お二人と [...]
恥
恥 太宰治 菊子さん。恥をかいちゃったわよ。ひどい恥をかきました。顔から火が出る、などの形容はなまぬるい。草原をころげ廻って、わあっと叫びたい、と言っても未だ足りない。サムエル後書にありました。「タマル、灰を其の首に蒙 [...]
0016)雲の果て 青き美空の かなしさを 同じ心に 人も見るらむ
雲の果て 青き美空の かなしさを 同じ心に 人も見るらむ 『雲の彼方に広がる美しい青空、その切々と心に染みる眺めを、私と同じような気持ちで、どこかであの人も見ているのだろうか?』 ← 前章へ戻る 『うたよみじゃう [...]
0016)くものはてあをきみそらのかなしさをおなじこころにひともみるらむ
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創作
創作 芥川龍之介 僕に小説をかけと云ふのかね。書けるのなら、とうに書いてゐるさ。が、書けない。遺憾ながら、職業に逐はれてペンをとる暇がない。そこで、人に話す、その人が、それを小説に書く。僕が材料を提供した小説が、これで [...]
悪魔
悪魔 芥川龍之介 伴天連うるがんの眼には、外の人の見えないものまでも見えたさうである。殊に、人間を誘惑に来る地獄の悪魔の姿などは、ありありと形が見えたと云ふ、――うるがんの青い瞳を見たものは、誰でもさう云ふ事を信じてゐ [...]
0015)大人とは 泣かぬものとや 思ひけむ 野辺に罵る 幼子の声
大人とは 泣かぬものとや 思ひけむ 野辺に罵る 幼子の声 『人は大人になったら泣かないもの、と思っていたのだろうに、大勢の大人が集まってわんわん泣いている光景が、きっと恐ろしかったのだろうなあ、死者を弔う野辺の送り [...]
トロツコ
トロツコ 芥川龍之介 小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まつたのは、良平の八つの年だつた。良平は毎日村外れへ、その工事を見物に行つた。工事を――といつた所が、唯トロツコで土を運搬する――それが面白さに見に行つたので [...]
0015)おとなとはなかぬものとやおもひけむのべにののしるをさなごのこゑ
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眉山
眉山 太宰治 これは、れいの飲食店閉鎖の命令が、未だ発せられない前のお話である。 新宿辺も、こんどの戦火で、ずいぶん焼けたけれども、それこそ、ごたぶんにもれず最も早く復興したのは、飲み食いをする家であった。帝都座の裏 [...]
0014)夕焼けに 目映き君の 黒髪を 何時か朝日に 透き梳らばや
夕焼けに 目映き君の 黒髪を 何時か朝日に 透き(好き)梳らばや 『夕焼けを浴びて目にも鮮やかに光る君の黒髪、素敵だね。あぁ、いつの日か、僕の手でその髪を、朝日に透かしつつ梳かしてみたいなぁ。』 ← 前章へ戻る [...]
0014)ゆふやけにまばゆききみのくろかみをいつかあさひにすきけづらばや
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水仙
水仙 太宰治 「忠直卿行状記」という小説を読んだのは、僕が十三か、四のときの事で、それっきり再読の機会を得なかったが、あの一篇の筋書だけは、二十年後のいまもなお、忘れずに記憶している。奇妙にかなしい物語であった。 剣術 [...]
0013)如何に生く その問ひ掛けの 答えのみ 追ひて気付けば いざ見果ててむ
如何に生(逝)く その問ひ掛けの 答えのみ 追ひ(老い)て気付けば いざ見果ててむ 『どうやって生きるべきか?どのように死ぬべきか?その問い掛けへの答えばかりをひたすら追い求めるうちに、気付けば自分は老い果ていて・ [...]
親友交歓
親友交歓 太宰治 昭和二十一年の九月のはじめに、私は、或る男の訪問を受けた。 この事件は、ほとんど全く、ロマンチックではないし、また、いっこうに、ジャアナリスチックでも無いのであるが、しかし、私の胸に於いて、私の死ぬ [...]
blog0002)「本」じゃ咲かない作家の花
<「本」じゃ咲かない作家の花> by 之人冗悟(Noto Jaugo) ●「作家」=「印税」や「原稿料」で喰ってる人達・・・? 世に「売文稼業」というのがあって、「一枚なんぼ」・「一文字いくら」の取り決めで出版業界(「 [...]
0013)いかにいくそのとひかけのこたへのみおひてきづけばいざみはててむ
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古典風
古典風 太宰治 ―― こんな小説も、私は読みたい。(作者) A 美濃十郎は、伯爵美濃英樹の嗣子である。二十八歳である。 一夜、美濃が酔いしれて帰宅したところ、家の中は、ざわめいている。さして気にもとめずに、廊下を歩い [...]
0012)当てもなく 彷徨ふ世にも 果てあれば いさよふ心地 酔ひ痴れるかも
当てもなく 彷徨ふ世にも 果てあれば いさよふ心地 酔ひ痴れるかも 『当てもなくさまようばかりの人生にも、終わりがあるから、意味なく過ごすばかりで嫌な人生だったと思っても、何となく去り難く感じたり・・・その感じに酔 [...]
走れメロス
走れメロス 太宰治 メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であっ [...]
■■サイト主宰者 之人冗悟(Noto Jaugo)の本■■
■当サイト主宰者 之人冗悟(Noto Jaugo)の手になる「古文・和歌」、そして「古文単語」の本、その内容に興味があれば、以下のリンクから開いて立ち読みされたし。 ・・・いずれも現在、発刊準備中・・・入手可能になるまで [...]
0012)あてもなくさまよふよにもはてあればいさよふここちゑひしれるかも
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鼻
鼻 芥川龍之介 禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上から顋の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っているのであ [...]
0011)今日の身を 繋ぐに暮るる 日の果てに 何処浮かばむ 常し世の蔭
今日の身(のみ)を 繋ぐに暮るる 日の果てに 何処浮かばむ 常し世の蔭 『今日一日をどうやって食いつなごうか、ただそれだけに汲々とし、途方に暮れつつ終わってしまう毎日、そんなことばかり続けていても、その先に永続的な [...]
駈込み訴え
駈込み訴え 太宰治 申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。酷い。はい。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。生かして置けねえ。 はい、はい。落ちついて申し上げます。あの人を、生かして置いてはなり [...]
芋粥
芋粥 芥川龍之介 元慶の末か、仁和の始にあつた話であらう。どちらにしても時代はさして、この話に大事な役を、勤めてゐない。読者は唯、平安朝と云ふ、遠い昔が背景になつてゐると云ふ事を、知つてさへゐてくれれば、よいのである。 [...]
0011)けふのみをつなぐにくるるひのはてにいづくうかばむとこしよのかげ
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0010)蟋蟀 鳴き勝る夜の 空蝉は 明日も鳴くとて 如何生くべき
蟋蟀 鳴き勝る夜(世)の 空蝉は 明日も鳴く(無く)とて 如何生くべき 『こおろぎの鳴き声が夜を支配するようになってしまった晩夏の蝉には、もう明日もない感じだが、だからといって鳴き止むわけにも行かない・・・一体、ど [...]
富岳百景
富嶽百景 太宰治 富士の頂角、広重の富士は八十五度、文晁の富士も八十四度くらゐ、けれども、陸軍の実測図によつて東西及南北に断面図を作つてみると、東西縦断は頂角、百二十四度となり、南北は百十七度である。広重、文晁に限らず [...]
0010)きりぎりすなきまさるよのうつせみはあすもなくとていかがいくべき
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blog0001)「本」の世界の本当の事情
<「本」の世界の本当の事情> by 之人冗悟(Noto Jaugo) ・・・全てのバクチの必勝法はただ一つ:「胴元(=開催者)になるがよい」。個々の博打打ちが勝ったり負けたりを繰り返す中で、確実に一人だけ絶対に儲け続ける [...]
桜桃
桜桃 太宰治 われ、山にむかいて、目を挙ぐ。 ―― 詩篇、第百二十一。 子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいな事を殊勝らしく考えてみても、何、子供よ [...]
家庭の幸福
家庭の幸福 太宰治 「官僚が悪い」という言葉は、所謂「清く明るくほがらかに」などという言葉と同様に、いかにも間が抜けて陳腐で、馬鹿らしくさえ感ぜられて、私には「官僚」という種属の正体はどんなものなのか、また、それが、どん [...]
0009)人と会ひ 我を忘るる 折りに浮く 我が姿こそ あらまほしけれ
人と会ひ 我を忘るる 折りに浮く 我が姿こそ あらまほしけれ 『誰かと会って、我を忘れる体験をすれば、その心浮き立つ思いの中から浮かび上がる自分自身の姿こそ、理想の自己像というものだ。』 ← 前章へ戻る 『うたよ [...]
0009)ひととあひわれをわするるをりにうくわがすがたこそあらまほしけれ
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おぎん
おぎん 芥川龍之介 元和か、寛永か、とにかく遠い昔である。 天主のおん教を奉ずるものは、その頃でももう見つかり次第、火炙りや磔に遇わされていた。しかし迫害が烈しいだけに、「万事にかない給うおん主」も、その頃は一層この [...]
杜子春
杜子春 芥川龍之介 一 或春の日暮です。 唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。 若者は名は杜子春といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を費ひ尽して、その日の暮しにも困る位、 [...]
0008)古の 事なら今日に 在らましや 末や似るとて 踏み初めて見む
古の 事(言・古都)なら今日に(奈良・京に) 在らまし(あらまし)や 末や似るとて 踏み初め(文染め)て見む 『大昔の事ならば、今日なお存在するなどということがあろうか?古代の末裔たる現代にも似たところがあるのだろ [...]
0008)いにしへのことならけふにあらましやすゑやにるとてふみそめてみむ
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新樹の言葉
新樹の言葉 太宰治 甲府は盆地である。四辺、皆、山である。小学生のころ、地理ではじめて、盆地という言葉に接して、訓導からさまざまに説明していただいたが、どうしても、その実景を、想像してみることができなかった。甲府へ来て [...]
0007)咲き切って 散るか然ならぬ 徒花か 疾しを嘆くな 為しを問ふべし
咲き切って 散るか然ならぬ 徒花か 疾し(歳)を嘆くな 為しを問ふべし 『最後まで咲ききった花の如き見事な大往生か、そうではなくて実を結ぶことなく枯れた徒花として終わったか・・・早過ぎる死だと言ってその享年の短さを [...]
黄金風景
黄金風景 太宰治 海の岸辺に緑なす樫の木、その樫の木に黄金の細き鎖のむすばれて ―プウシキン― 私は子供のときには、余り質のいい方ではなかった。女中をいじめた。私は、のろくさいことは嫌いで、それゆえ、のろくさい女中を殊 [...]
0007)さききってちるかさならぬあだばなかとしをなげくなせしをとふべし
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羅生門
羅生門 芥川龍之介 ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。 広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路に [...]
0006)草いきれ 臭ひに浮ける 虫追ひの 遠き畦道 子等や尚行く
草いきれ 臭ひに浮ける 虫追ひの 遠き畦道 子等や尚行く 『夏の暑い空気に浮かぶ草いきれ、その濃密な緑の臭いに触発された思い出の中に浮かぶのは、遠い日にわくわくしながら虫を追いかけて辿った田舎の畦道・・・今でも子供 [...]
あさましきもの
あさましきもの 太宰治 賭弓に、わななくわななく久しうありて、はづしたる矢の、もて離れてことかたへ行きたる。 こんな話を聞いた。 たばこ屋の娘で、小さく、愛くるしいのがいた。男は、この娘のために、飲酒をやめようと決心 [...]
あばばばば
あばばばば 芥川龍之介 保吉はずつと以前からこの店の主人を見知つてゐる。 ずつと以前から、 ― 或はあの海軍の学校へ赴任した当日だつたかも知れない。彼はふとこの店へマツチを一つ買ひにはひつた。店には小さい飾り窓があり [...]
0006)くさいきれにほひにうけるむしおひのとほきあぜみちこらやなほいく
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0005)夏去らば 愈聞こえむ 空蝉の 鈴鳴りの声 人にかも似る
夏去らば 愈聞こえむ 空蝉の 鈴鳴りの声 人にかも似る 『夏が去ったならば、ますます激しく鈴を連ねたように聞こえるであろう、今を限りの蝉の声、それは人間に似ていないでもない。』 ← 前章へ戻る 『うたよみじゃうご [...]
蜘蛛の糸
蜘蛛の糸 芥川龍之介 一 ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何と [...]
0005)なつさらばいよよきこえむうつせみのすずなりのこゑひとにかもにる
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0004)咲かずとも 在らばめでたき 花惜しむ 人故にこそ 如何で咲かなむ
咲かずとも 在らばめでたき 花惜しむ 人故にこそ 如何で咲かなむ 『花開かなくともいい、生きていてくれさえすればそれでいい、なんて、ただひたすらに自分のことを大事に思ってくれる人のためにこそ、何とかして一花咲かせて [...]
0004)さかずともあらばめでたきはなをしむひとゆゑにこそいかでさかなむ
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0003)死ぬは唯 生くるに如かじと 在る世にも 刹那燦めく 花火哀しも
死ぬは唯 生くるに如かじと 在る世(夜)にも 刹那燦めく(切なき) 花火哀しも 『生きている、と言ってもそれはただ、死んだって生きてるよりマシってことはあるまい、と思えばこそなのだけど、そんな風に生きてるこの世の中 [...]
0003)しぬはただいくるにしかじとあるよにもせつなきらめくはなびかなしも
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0002)人や愛づる 思ひ出遠き 空の下 誰と見上ぐる 夏の夜の花
人や愛づる 思ひ出遠き 空の下 誰と見上ぐる 夏の夜の花 『あの人も、今頃は喜んで見ているのだろうか?一緒に見た思い出ももう遥かな昔のものとなってしまったけれど、夏の夜空に咲く華のような花火を、遠いどこかの空の下で [...]
0002)ひとやめづるおもひでとほきそらのしたたれとみあぐるなつのよのはな
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0001)斯くて在りと 書く間も惜しき 夏なれば 秋の来るまで 歌ふ由なし
斯くて在りと 書く間も惜しき 夏なれば 秋(飽き)の来るまで 歌(訴)ふ由なし 『自分はこうして生きていました、なんて書く時間さえも惜しまれる季節が夏なので、忙しく立ち回るのにも飽き、秋がやって来るまでは、歌など詠 [...]
0001)かくてありとかくまもをしきなつなればあきのくるまでうたふよしなし
『歌詠み上戸』 次章へ進む → ★自分の「ツィッター」アカウント上で、この『うたよみじゃうご』の章を紹介してみる→Tweet ・・・歌の謎解きは1日~数日後に。。。 それまで、我と思わん解釈子あらば、投稿にて我を張られ [...]
伊勢物語001)初冠
伊勢物語001)初冠 昔、男、初冠して、奈良の京、春日の里に、しるよしして、狩にいにけり。その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。この男、かいま見てけり。思ほえず、ふるさとに、いとはしたなくてありければ、心地まど [...]
声