伊勢物語001)初冠
伊勢物語001)初冠 昔、男、初冠して、奈良の京、春日の里に、しるよしして、狩にいにけり。その里に、いとなまめいたる女はらから住みけり。この男、かいま見てけり。思ほえず、ふるさとに、いとはしたなくてありければ、心地まど [...]
伊勢物語002)西の京の女
伊勢物語002)西の京の女 昔、男ありけり。奈良の京ははなれ、この京は人の家まださだまらざりける時に、西の京に女ありけり。その女、世人にはまされりけり。その人、かたちよりは心なむまさりたりける。ひとりのみもあらざりけら [...]
伊勢物語003)ひじきもの
伊勢物語003)ひじきもの 昔、男ありけり。懸想しける女のもとに、ひじき藻といふものをやるとて、 思ひあらばむぐらの宿に寝もしなむひしきものには袖をしつつも 二条の后の、まだ帝にも仕うまつりたまはで、ただ人に [...]
伊勢物語004)月やあらぬ
伊勢物語004)月やあらぬ 昔、東の五条に、大后の宮おはしましける、西の対に、住む人ありけり。それを、本意にはあらで、心ざし深かりける人、行き訪ひけるを、睦月の十日ばかりのほどに、ほかに隠れにけり。ありどころは聞けど、 [...]
伊勢物語005)関守
伊勢物語005)関守 昔、男ありけり。東の五条わたりに、いと忍びて行きけり。みそかなる所なれば、門よりもえ入らで、童べの踏みあけたるついひぢの崩れより通ひけり。人しげくもあらねど、たび重なりければ、あるじ聞きつけて、そ [...]
伊勢物語006)芥川
伊勢物語006)芥川 昔、男ありけり。女のえ得まじかりけるを、年を経て呼ばひわたりけるを、からうじて盗み出でて、いと暗きに来けり。芥川といふ川を率て行きければ、草の上に置きたりける露を、「かれは何ぞ」となむ男に問ひける [...]
伊勢物語007)かへる波
伊勢物語007)かへる波 昔、男ありけり。京にありわびて東に行きけるに、伊勢、尾張のあはひの海づらを行くに、波のいと白く立つを見て、 いとどしく過ぎゆく方の恋しきにうらやましくもかへる浪かな となむよめりける。 [...]
伊勢物語008)浅間の獄
伊勢物語008)浅間の獄 昔、男ありけり。京やすみ憂かりけむ、あづまの方にゆきて、すみ所もとむとて、ともとする人、ひとりふたりしてゆきけり。信濃の国、浅間の獄に煙の立つを見て、 信濃なる浅間の獄に立つけぶりをちこち [...]
伊勢物語009)東下り
伊勢物語009)東下り 昔、男ありけり。その男、身をえうなきものに思ひなして、京にはあらじ、あづまの方に住むべき国求めにとてゆきけり。もとより友とする人、ひとりふたりしていきけり。道知れる人もなくて、まどひいきけり。三 [...]
伊勢物語010)たのむの雁
伊勢物語010)たのむの雁 昔、男、武蔵の国までまどひありきけり。さて、その国にある女をよばひけり。父はこと人にあはせむといひけるを、母なむあてなる人に心つけたりける。父はなほ人にて、母なむ藤原なりける。さてなむあてな [...]
伊勢物語011)空ゆく月
伊勢物語011)空ゆく月 昔、男、あづまへゆきけるに、友だちどもに、道よりいひおこせける。 忘るなよほどは雲居になりぬとも空ゆく月のめぐりあふまで 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto [...]
伊勢物語012)武蔵野
伊勢物語012)武蔵野 昔、男ありけり。人の娘を盗みて、武蔵野へ率て行くほどに、盗人なりければ、国の守にからめられにけり。女をば草むらの中に置きて、逃げにけり。道来る人、「この野は盗人あなり」とて、火つけなむとす。女わ [...]
伊勢物語013)武蔵鐙
伊勢物語013)武蔵鐙 昔、武蔵なる男、京なる女のもとに、「聞こゆれば恥づかし、聞こえねば苦し」と書きて、うはがきに、「むさしあぶみ」と書きて、おこせてのち、音もせずなりにければ、京より、女、 武蔵鐙さすがにかけて [...]
伊勢物語014)あねはの松
伊勢物語014)あねはの松 昔、男、陸奥の国にすずろにゆきいたりにけり。そこなる女、京の人はめづらかにやおぼえけむ、せちに思へる心なむありける。さて、かの女、 なかなかに恋に死なずは桑子にぞなるべかりける玉の緒ばか [...]
伊勢物語015)しのぶ山
伊勢物語015)しのぶ山 昔、陸奥の国にて、なでふことなき人の妻に通ひけるに、あやしう、さやうにてあるべき女ともあらず見えければ、 しのぶ山しのびてかよふ道もがな人の心のおくも見るべく 女、かぎりなくめでたしと [...]
伊勢物語016)紀有常
伊勢物語016)紀有常 昔、紀有常といふ人ありけり。三代の帝に仕うまつりて、時にあひけれど、のちは、世かはり時うつりにければ、世の常の人のごとにもあらず。人がらは、心うつくしく、あてはかなることを好みて、こと人にも似ず [...]
伊勢物語017)年にまれなる人
伊勢物語017)年にまれなる人 年ごろおとづれざりける人の、桜のさかりに見に来たりければ、あるじ、 あだなりと名にこそ立てれ桜花年にまれなる人も待ちけり 返し、 今日来ずは明日は雪とぞ降りなまし消えずはあり [...]
伊勢物語018)なま心ある女
伊勢物語018)なま心ある女 昔、なま心ある女ありけり。男近うありけり。女、歌よむ人なりければ、心みむとて、菊の花のうつろへるを折りて、男のもとへやる。 くれなゐににほふはいづらしら雪のえだもとををに降るかとも見ゆ [...]
伊勢物語019)天雲のよそ
伊勢物語019)天雲のよそ 昔、男、宮仕へしける女の方に、御達なりける人をあひ知りたりける、ほどもなく離れにけり。同じ所なれば、女の目には見ゆるものから、男は、あるものかとも思ひたらず。女、 天雲のよそにも人のなり [...]
伊勢物語020)かへでの紅葉
伊勢物語020)かへでの紅葉 昔、男、大和にある女を見て、よばひてあひにけり。さて、ほど経て、宮仕へする人なりければ、帰り来る道に、弥生ばかりに、かへでのもみぢのいとおもしろきを折りて、女のもとに、道よりいひやる。 [...]
伊勢物語021)忘れ草
伊勢物語021)忘れ草 昔、男、女、いとかしこく思ひかはして、こと心なかりけり。さるを、いかなることかありけむ、いささかなることにつけて、世の中を憂しと思ひて、かかる歌なむよみて、物に書きつけける。 出でていなば心 [...]
伊勢物語022)千代をひと夜に
伊勢物語022)千代をひと夜に 昔、はかなくて絶えにける仲、なほや忘れざりけむ、女のもとより、 憂きながら人をばえしも忘れかねかつ恨みつつなほぞ恋しき といへりければ、「さればよ」といひて、男、 あひ見ては [...]
伊勢物語023)筒井筒
伊勢物語023)筒井筒 昔、田舎わたらひしける人の子ども、井のもとにいでて遊びけるを、おとなになりにければ、男も女も恥ぢかはしてありけれど、男はこの女をこそ得めと思ふ。女はこの男をと思ひつつ、親のあはすれども、聞かでな [...]
伊勢物語024)梓弓
伊勢物語024)梓弓 昔、男片田舎に住みけり。男、宮仕えしにとて、別れ惜しみて行きにけるままに、三年来ざりければ、待ちわびたりけるに、いとねむごろに言ひける人に、「今宵あはむ」と契りたりけるに、この男来たりけり。「この [...]
伊勢物語025)逢はで寝る夜
伊勢物語025)逢はで寝る夜 昔、男ありけり。あはじともいはざりける女の、さすがなりけるがもとに、いひやりける。 秋の野にささわけし朝の袖よりもあはで寝る夜ぞひぢまさりける 色好みなる女、返し、 みるめなき [...]
伊勢物語026)もろこし舟
伊勢物語026)もろこし舟 昔、男、五条わたりなりける女を、え得ずなりにけることと、わびたりける人の返りごとに、 思ほえず袖にみなとのさわぐかなもろこし船のよりしばかりに 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人 [...]
伊勢物語027)たらひのかげ
伊勢物語027)たらひのかげ 昔、男、女のもとに一夜いきて、またもいかずなりにければ、女の手洗ふ所に、貫簀をうちやりて、たらひのかげに見えけるを、みづから、 わればかりもの思ふ人はまたもあらじと思へば水の下もありけ [...]
伊勢物語028)あふごかたみ
伊勢物語028)あふごかたみ 昔、色好みなりける女、いでていにければ、 などてかくあふごかたみになりにけむ水もらさじとむすびしものを 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jaugo) [...]
伊勢物語029)花の賀
伊勢物語029)花の賀 昔、春宮の女御の御方の花の賀に、召しあづけられたりけるに、 花にあかぬ嘆きはいつもせしかども今日の今宵に似る時はなし 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jau [...]
伊勢物語030)はつかなりける女
伊勢物語030)はつかなりける女 昔、男、はつかなりける女のもとに、 逢ふことの玉の緒ばかりおもほえてつらき心の長く見ゆらむ 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jaugo) of h [...]
伊勢物語031)よしや草葉よ
伊勢物語031)よしや草葉よ 昔、宮のうちにて、ある御達の局の前を渡りけるに、なにのあたにか思ひけむ、「よしや草葉よならむさが見む」といふ。男、 罪もなき人をうけへば忘れ草おのが上にぞ生ふといふなる といふを、 [...]
伊勢物語032)しづのをだまき
伊勢物語032)しづのをだまき 昔、ものいひける女に、年ごろありて、 いにしへのしづのをだまきくりかへし昔を今になすよしもがな といへりけれど、何とも思はずやありけむ。 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は [...]
伊勢物語033)こもり江
伊勢物語033)こもり江 昔、男、津の国、菟原の郡に通ひける女、このたび行きては、または来じと思へるけしきなれば、男、 葦辺より満ちくる潮のいやましに君に心を思ひますかな 返し、 こもり江に思ふ心をいかでか [...]
伊勢物語034)つれなかりける人
伊勢物語034)つれなかりける人 昔、男、つれなかりける人のもとに、 いへばえにいはねば胸にさわがれて心ひとつに嘆くころかな おもなくていへるなるべし。 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(No [...]
伊勢物語035)あわ緒
伊勢物語035)あわ緒 昔、心にもあらで絶えたる人のもとに、 玉の緒をあわ緒によりて結べれば絶えてののちもあはむとぞ思ふ 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jaugo) of htt [...]
伊勢物語036)玉かづら絶えむ
伊勢物語036)玉かづら絶えむ 昔、「忘れぬるなめり」と、問ひごとしける女のもとに、 谷せばみ峯まではへる玉かづら絶えむと人にわが思はなくに 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jau [...]
伊勢物語037)下紐
伊勢物語037)下紐 昔、男、色好みなりける女にあへりけり。うしろめたくや思ひけむ、 われならで下紐解くなあさがほの夕影またぬ花にはありとも 返し、 ふたりして結びし紐をひとりしてあひ見るまでは解かじとぞ思 [...]
伊勢物語038)恋といふ
伊勢物語038)恋といふ 昔、紀有常がりいきたるに、ありきて遅く来けるに、よみてやりける。 君により思ひならひぬ世の中の人はこれをや恋といふらむ 返し、 ならはねば世の人ごとに何をかも恋とはいふと問ひしわれ [...]
伊勢物語039)源至
伊勢物語039)源至 昔、西院の帝と申すみかどおはしましけり。その帝のみこ、たかい子と申すいまそがりけり。そのみこ失せ給ひて、御葬の夜、その宮の隣なりける男、御はぶり見むとて、女車にあひ乗りて出でたりけり。いと久しう率 [...]
伊勢物語040)すける物思ひ
伊勢物語040)すける物思ひ 昔、若き男、けしうはあらぬ女を思ひけり。さかしらする親ありて、思ひもぞつくとて、この女をほかへ追ひやらむとす。さこそいへ、まだ追ひやらず。人の子なれば、まだ心いきほひなかりければ、とどむる [...]
伊勢物語041)女はらから
伊勢物語041)女はらから 昔、女はらから二人ありけり。一人はいやしき男の貧しき、一人はあてなる男もたりけり。いやしき男持たる、十二月のつごもりに、上の衣を洗ひて、手づから張りけり。心ざしはいたしけれど、さるいやしきわ [...]
伊勢物語042)たが通ひ路
伊勢物語042)たが通ひ路 昔、男、色好みと知る知る、女をあひ言へりけり。されど、にくくはたあらざりけり。しばしばいきけれど、なほいとうしろめたく、さりとて、いかではたえあるまじかりけり。なほはたえあらざりける仲なりけ [...]
伊勢物語043)死出の田長
伊勢物語043)死出の田長 昔、賀陽の親王と申すみこおはしましけり。その親王、女を思し召して、いとかしこう恵みつかう給ひけるを、人なまめきてありけるを、我のみと思ひけるを、また人聞きつけて文やる。ほととぎすの形をかきて [...]
伊勢物語044)馬のはなむけ
伊勢物語044)馬のはなむけ 昔、県へゆく人に、むまのはなむけせむとて、呼びて、うとき人にしあらざりければ、家刀自さかづきささせて、女の装束かづけむとす。あるじの男、歌よみて裳の腰にゆひつけさす。 出でてゆく君がた [...]
伊勢物語045)行く蛍
伊勢物語045)行く蛍 昔、男ありけり。人のむすめのかしづく、いかでこの男にものいはむと思ひけり。うちいでむことかたくやありけむ、もの病みになりて、死ぬべき時に、「かくこそ思ひしか」といひけるを、親聞きつけて、泣く泣く [...]
伊勢物語046)うるはしき友
伊勢物語046)うるはしき友 昔、男、いとうるはしき友ありけり。かた時さらずあひ思ひけるを、人の国へいきけるを、いとあはれと思ひて、別れけり。月日経て、おこせたる文に、「あさましく、対面せで、月日の経にけること。忘れや [...]
伊勢物語047)大幣
伊勢物語047)大幣 昔、男、ねむごろにいかでと思ふ女ありけり。されどこの男をあだなりと聞きて、つれなさのみまさりつついへる。 大幣の引く手あまたになりぬれば思へどえこそ頼まざりつれ 返し、男、 大幣と名に [...]
伊勢物語048)苦しきもの
伊勢物語048)苦しきもの 昔、男ありけり。むまのはなむけとて、人を待ちけるに、来ざりければ、 今ぞ知る苦しきものと人待たむ里をば離れずとふべかりけり 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Not [...]
伊勢物語049)若草
伊勢物語049)若草 昔、男、妹のいとをかしげなりけるを見をりて、 うら若み寝よげに見ゆる若草を人のむすばむことをしぞ思ふ と聞こえけり。返し、 初草のなどめづらしき言の葉ぞうらなくものを思ひけるかな [...]
伊勢物語050)あだくらべ
伊勢物語050)あだくらべ 昔、男ありけり。うらむる人をうらみて、 鳥の子を十づつ十はかさぬとも思はぬひとを思ふものかは といへりければ、 朝露は消えのこりてもありぬべしたれかこの世を頼みはつべき また [...]
伊勢物語051)前裁の菊
伊勢物語051)前裁の菊 昔、男、人の前裁に、菊植ゑけるに、 植ゑし植ゑば秋なき時や咲かざらむ花こそ散らめ根さへ枯れめや 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jaugo) of htt [...]
伊勢物語052)飾り粽
伊勢物語052)飾り粽 昔、男ありけり。人のもとよりかざりちまきおこせたりける返りごとに、 あやめ刈り君は沼にぞまどひけるわれは野に出でてかるぞわびしき とて、雉をなむやりける。 以下、アンチョコ現代語訳・・・ [...]
伊勢物語053)あひがたき女
伊勢物語053)あひがたき女 昔、男、あひがたき女にあひて、物語などするほどに、鶏の鳴きければ、 いかでかは鶏の鳴くらむ人しれず思ふ心はまだ夜ぶかきに 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Not [...]
伊勢物語054)ゆきやらぬ夢路
伊勢物語054)ゆきやらぬ夢路 昔、男、つれなかりける女にいひやりける。 ゆきやらぬ夢路を頼むたもとには天つ空なる露や置くらむ 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jaugo) of [...]
伊勢物語055)思ひかけたる女
伊勢物語055)思ひかけたる女 昔、男、思ひかけたる女の、え得まじうなりての世に、 思はずはありもすらめど言の葉のをりふしごとに頼まるるかな 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jau [...]
伊勢物語056)草の庵
伊勢物語056)草の庵 昔、男、臥して思ひ起きて思ひ、思ひあまりて、 わが袖は草のいほりにあらねども暮るれば露のやどりなりけり 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jaugo) of [...]
伊勢物語057)われから
伊勢物語057)われから 昔、男、人しれずもの思ひけり。つれなき人のもとに、 恋ひわびぬあまの刈る藻にやどるてふわれから身をもくだきつるかな 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jau [...]
伊勢物語058)鬼のすだく
伊勢物語058)鬼のすだく 昔、心つきて色好みなる男、長岡といふ所に家つくりてをりけり。そこのとなりなりける宮ばらに、こともなき女どもの、ゐなかなりければ、田刈らむとて、この男のあるを見て、「いみじのすき者のしわざや」 [...]
伊勢物語059)東山
伊勢物語059)東山 昔、男、京をいかが思ひけむ、東山にすまむと思ひ入りて、 住みわびぬ今はかぎりと山里に身をかくすべき宿もとめてむ かくて、ものいたく病みて、死に入りたりければ、おもてに水そそきなどして、生 [...]
伊勢物語060)花橘
伊勢物語060)花橘 昔、男ありけり。宮仕へ忙しく、心もまめならざりけるほどの家刀自、まめに思はむといふ人につきて、人の国へ往にけり。この男、宇佐の使にて行きけるに、ある国の祗承の官人の妻にてなむあると聞きて、「女ある [...]
伊勢物語061)染河
伊勢物語061)染河 昔、男、筑紫までいきたりけるに、「これは色好むといふすき者」と、簾のうちなる人のいひけるを聞きて、 染河を渡らむ人のいかでかは色になるてふことのなからむ 女、返し、 名にしおはばあだに [...]
伊勢物語062)いにしへのにほひ
伊勢物語062)いにしへのにほひ 昔、年ごろおとづれざりける女、心かしこくやあらざりけむ、はかなき人の言につきて、人の国なりける人に使はれて、もと見し人の前にいで来て、もの食はせなどしけり。夜さり、「このありつる人たま [...]
伊勢物語063)つくも髪
伊勢物語063)つくも髪 昔、世心つける女、いかで心なさけあらむをとこにあひえてしがなと思へど、言ひ出でむもたよりなさに、まことならぬ夢語りをす。子三人を呼びて、かたりけり。二人の子は、なさけなくいらへて止みぬ。三郎な [...]
伊勢物語064)玉すだれ
伊勢物語064)玉すだれ 昔、男、みそかに語らふわざもせざりければ、いづくなりけむあやしさによめる。 吹く風にわが身をなさば玉すだれひま求めつつ入るべきものを 返し、 とりとめぬ風にはありとも玉すだれたが許 [...]
伊勢物語065)在原なりける男
伊勢物語065)在原なりける男 昔、おほやけ思して使う給ふ女の、色ゆるされたるありけり。大御息所とていますがりけるいとこなりけり。殿上にさぶらひける在原なりける男の、まだいと若かりけるを、この女あひしりたりけり。男、女 [...]
伊勢物語066)難波津
伊勢物語066)難波津 昔、男、津の国にしる所ありけるに、あにおとと友だちひきゐて、難波の方にいきけり。渚を見れば、船どものあるを見て、 難波津を今朝こそみつの浦ごとにこれやこの世をうみ渡る船 これをあはれがり [...]
伊勢物語067)花の林
伊勢物語067)花の林 昔、男、逍遥しに、思ふどちかい連ねて、和泉の国へ二月ばかりに行きけり。河内の国、生駒の山を見れば、曇りみ晴れみ、立ちゐる雲やまず。朝より曇りて、昼晴れたり。雪いと白う木の末に降りたり。それを見て [...]
伊勢物語068)住吉の浜
伊勢物語068)住吉の浜 昔、男、和泉の国へいきけり。住吉の郡、住吉の里、住吉の浜をゆくに、いとおもしろければ、おりゐつつゆく。ある人、「住吉の浜とよめ」といふ。 雁鳴きて菊の花さく秋はあれど春のうみべにすみよしの [...]
伊勢物語069)狩の使
伊勢物語069)狩の使 昔、男ありけり。その男、伊勢の国に狩の使にいきけるに、かの伊勢の斎宮なりける人の親、「つねの使よりは、この人よくいたはれ」といひやれりければ、親の言なりければ、いとねむごろにいたはりけり。朝には [...]
伊勢物語070)あまの釣舟
伊勢物語070)あまの釣舟 昔、男、狩の使より帰り来けるに、大淀のわたりに宿りて、斎宮のわらはべにいひかけける。 みるめかるかたやいづこぞ棹さしてわれに教へよあまの釣舟 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は [...]
伊勢物語071)神のいがき
伊勢物語071)神のいがき 昔、男、伊勢の斎宮に、内の御使にて参りければ、かの宮に、すきごといひける女、わたくしごとにて、 ちはやぶる神のいがきも越えぬべし大宮人の見まくほしさに 男、 恋しくは来ても見よか [...]
伊勢物語072)大淀の松
伊勢物語072)大淀の松 昔、男、伊勢の国なりける女、またえあはで、隣の国へいくとて、いみじう恨みければ、女、 大淀の松はつらくもあらなくにうらみてのちもかへる浪かな 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→ [...]
伊勢物語073)月のうちの桂
伊勢物語073)月のうちの桂 昔、そこにはありと聞けど、消息をだにいふべくもあらぬ女のあたりを思ひける。 目には見て手にはとられぬ月のうちの桂のごとき君にぞありける 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之 [...]
伊勢物語074)重なる山
伊勢物語074)重なる山 昔、男、女をいたう恨みて、 岩根ふみ重なる山にあらねどもあはぬ日おほく恋ひわたるかな 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jaugo) of http://f [...]
伊勢物語075)海松
伊勢物語075)海松 昔、男、「伊勢の国に率ていきてあらむ。」といひければ、女、 大淀の浜に生ふてふみるからに心はなぎぬかたらはねども といひて、ましてつれなかりければ、男、 袖ぬれてあまのかりほすわたつう [...]
伊勢物語076)小塩の山
伊勢物語076)小塩の山 昔、二条の后の、まだ春宮の御息所と申しける時、氏神にまうで給ひけるに、近衛府に候ひけるおきな、人々の禄賜はるついでに、御車より賜はりて、よみて奉りける。 大原や小塩の山も今日こそは神代のこ [...]
伊勢物語077)春の別れ
伊勢物語077)春の別れ 昔、田邑の帝と申す帝おはしましけり。その時の女御、多賀幾子と申す、みまそかりけり。それ失せ給ひて、安祥寺にてみわざしけり。人々ささげ物奉りけり。奉り集めたる物、千ささげばかりあり。そこばくのさ [...]
伊勢物語078)色見えぬ心
伊勢物語078)色見えぬ心 昔、多賀幾子と申す女御おはしましけり。失せ給ひて、七七日のみわざ、安祥寺にてしけり。右大将藤原の常行といふ人いまそかりけり。そのみわざにまうで給ひて、かへさに、山科の禅師の親王おはします、そ [...]
伊勢物語079)貞数の親王
伊勢物語079)貞数の親王 昔、氏のなかに親王生まれ給へりけり。御産屋に、人々、歌よみけり。御祖父がたなりける翁のよめる。 わが門に千ひろあるかげを植ゑつれば夏冬たれかかくれざるべき これは貞数の親王。時の人 [...]
伊勢物語080)おとろへたる家
伊勢物語080)おとろへたる家 昔、おとろへたる家に、藤の花植ゑたる人ありけり。三月のつごもりに、その日、雨そほふるに、人のもとへ折りて奉らすとてよめる。 ぬれつつぞしひて折りつる年のうちに春はいく日もあらじと思へ [...]
伊勢物語081)塩竃
伊勢物語081)塩竃 昔、左のおほいまうちぎみいまそかりけり。賀茂川のほとりに、六条わたりに、家いとおもしろく造りて、住み給ひけり。神無月のつごもりがた、菊の花うつろひさかりなりに、もみぢのちぐさに見ゆるをり、親王たち [...]
伊勢物語082)渚の院
伊勢物語082)渚の院 昔、惟喬の親王と申すみこおはしましけり。山崎のあなたに、水無瀬といふ所に、宮ありけり。年ごとの桜の花ざかりには、その宮へなむおはしましける。その時、右の馬の頭なりける人を、常に率ておはしましけり [...]
伊勢物語083)小野の雪
伊勢物語083)小野の雪 昔、水無瀬に通ひ給ひし惟喬の親王、例の、狩りしにおはします供に、馬の頭なる翁仕うまつれり。日ごろ経て、宮に帰り給うけり。御送りして、とく往なむと思ふに、大御酒給ひ、祿給はむとて、つかはさざりけ [...]
伊勢物語084)とみの文
伊勢物語084)とみの文 昔、男ありけり。身はいやしながら、母なむ宮なりける。その母、長崎といふ所に住み給ひけり。子は京に宮仕へしければ、まうづとしけれど、しばしばえまうでず。ひとつ子にさへありければ、いとかなしうし給 [...]
伊勢物語085)目離れせぬ雪
伊勢物語085)目離れせぬ雪 昔、男ありけり。わらはより仕ふまつりける君、御髪おろし給うてけり。正月にはかならずまうでけり。おほやけの宮仕へしければ、つねにはえまうでず。されど、もとの心うしなはでまうでけるになむありけ [...]
伊勢物語086)忘れぬ人
伊勢物語086)忘れぬ人 昔、いと若き男、若き女をあひいへりけり。おのおの親ありければ、つつみていひさしてやみにけり。年ごろ経て、女のもとに、なほ心ざし果たさむとや思ひけむ、男、歌をよみてやれりけり。 いままでに忘 [...]
伊勢物語087)布引の滝
伊勢物語087)布引の滝 昔、男、津の国、莵原の郡、芦屋の里に、しるよしして、いきてすみけり。昔の歌に、 芦の屋のなだのしほ焼きいとまなみつげの小櫛もささず来にけり とよみけるぞ、この里をよみける。ここをなむ芦 [...]
伊勢物語088)月をもめでじ
伊勢物語088)月をもめでじ 昔、いと若きにはあらぬ、これかれ友だちども集まりて、月を見て、それが中にひとり、 おほかたは月をもめでじこれぞこのつもれば人の老いとなるもの 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人 [...]
伊勢物語089)なき名
伊勢物語089)なき名 昔、いやしからぬ男、われよりはまさりたる人を思ひかけて、年経ける。 人知れずわれ恋ひ死なばあぢきなくいづれの神になき名負ほせむ 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Not [...]
伊勢物語090)桜花
伊勢物語090)桜花 昔、つれなき人をいかでと思ひわたりければ、あはれとや思ひけむ、「さらば、あす、ものごしにても」といへりけるを、かぎりなくうれしく、またうたがはしかりければ、おもしろかりける桜につけて、 桜花今 [...]
伊勢物語091)春のかぎり
伊勢物語091)春のかぎり 昔、月日のゆくへをさへ嘆く男、三月のつごもりがたに、 惜しめども春のかぎりの今日の日の夕暮にさへなりにけるかな 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jaug [...]
伊勢物語092)棚なし小舟
伊勢物語092)棚なし小舟 昔、恋しさに来つつ帰れど、女に消息をだにえせでよめる。 あしべこぐ棚なし小舟いくそたびゆきかへるらむしる人もなみ 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人は→之人冗悟(Noto Jau [...]
伊勢物語093)あふなあふな思ひ
伊勢物語093)あふなあふな思ひ 昔、男、身はいやしくて、いとになき人を思ひかけたりけり。すこし頼みぬべきさまにやありけむ、ふして思ひ、おきて思ひ、思ひわびてよめる。 あふなあふな思ひはすべしなぞへなくたかきいやし [...]
伊勢物語094)紅葉も花も
伊勢物語094)紅葉も花も 昔、男ありけり。いかがありけむ、その男すまずなりにけり。のちに男ありけれど、子ある仲なりければ、こまかにこそあらねど、時々ものいひおこせり。女がたに、絵かく人なりければ、かきにやれりけるを、 [...]
伊勢物語095)彦星
伊勢物語095)彦星 昔、二条の后に仕うまつる男ありけり。女の仕うまつるを、つねに見かはして、よばひわたりけり。「いかでものごしに対面して、おぼつかなく思ひつめたること、すこしはるかさむ」といひければ、女、いと忍びて、 [...]
伊勢物語096)天の逆手
伊勢物語096)天の逆手 昔、男ありけり。女をとかくいふこと月日経にけり。石木にしあらねば、心苦しとや思ひけむ、やうやうあはれと思ひけり。その頃、六月の望ばかりなりければ、女、身にかさ一つ二ついできにけり。女いひおこせ [...]
伊勢物語097)四十の賀
伊勢物語097)四十の賀 昔、堀河の大臣と申す、いまそかりけり。四十の賀、九条の家にてせられける日、中将なりける翁、 桜花散りかひ曇れ老いらくの来むといふなる道まがふがに 以下、アンチョコ現代語訳・・・作った人 [...]
伊勢物語098)梅の造り枝
伊勢物語098)梅の造り枝 昔、おほきおほいまうちぎみと聞こゆる、おはしけり。仕うまつる男、九月ばかりに、梅の造り枝に雉をつけて奉るとて、 わが頼む君がためにと折る花は時しもわかぬものにぞありける とよみて奉り [...]
伊勢物語099)ひをりの日
伊勢物語099)ひをりの日 昔、右近の馬場のひをりの日、むかひに立てたりける車に、女の顔の、下簾よりほのかに見えければ、中将なりける男のよみてやりける。 見ずもあらず見もせぬ人の恋しくはあやなく今日やながめ暮らさむ [...]
伊勢物語100)忘れ草
伊勢物語100)忘れ草 昔、男、後涼殿のはさまを渡りければ、あるやむごとなき人の御局より、忘れ草を「忍ぶ草とやいふ」とて、いださせ給へりければ、賜はりて、 忘れ草おふる野辺とは見るらめどこはしのぶなりのちも頼まむ [...]
声