百一078解題)淡路島通ふ千鳥の鳴く声に幾夜寝覚めぬ須磨の関守

淡路島通ふ千鳥の鳴く声に幾夜寝覚めぬ須磨の関守
『金葉集』冬・二七〇(源兼昌:みなもとのかねまさ)(男性)

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解題

 この歌の解釈の下敷きには、紫式部が『源氏物語』(1008)「須磨」の巻で、光源氏に独白の形でかせた次の歌を知っておく必要があるだろう:
 友千鳥もろ声に鳴くはひとり寝覚めのもたのもし
 千鳥が仲間同士、一斉に鳴き騒ぐ声に、朝早く目覚めてしまった寝床では、一人寂しい我が身には、鳥達がまるで自分の友達のように感じられて、心細いこの須磨の地にあって、何となく頼もしい気持ちになる。
 このように、他の著名作品(物語・漢詩・短歌など)の世界を引き合いに出しつつ、自らの作品の情趣に活かす手法を「本説取り」と呼ぶ。
 この第78番歌では、「千鳥の声に目覚める人物」を「光源氏→須磨の関守」に、「目覚める時刻」を「早朝→深夜」に、「千鳥の鳴く場所」を「海辺→淡路島への渡航中の空」に、と変更している。
 「関路千鳥」という「題詠」で、元より空想の歌であるから、こうした「本説取り」や「本歌取り」によって、読み手各人の想像の引き出しを開けてイメージ世界の拡大を図るのは、よく行なわれる芸当なのであった。
 作者源兼昌は生没年不詳。堀河天皇(73代)時代の歌人だが、官位は従五位下止まりで、その後出家している。この時代、官途を見限った人々は多く出家している。官位による階層の隔てを、俗世を捨てることで超越してしまえば、そこに歌や音楽等の文芸の才さえ伴えば、「**法師」という形で遊興の座での貴人との同席の機会も得られるかもしれぬと期待し、そこに活路を見出そうとした人々も大勢いたのである・・・「遁世隠者・世捨て人」という現代人のイメージを裏切るほどに、古典時代の「出家」には、世俗的願望の色彩が濃密なのだ。

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