ひょっとこ

ひょっとこ 芥川龍之介  吾妻橋の欄干によって、人が大ぜい立っている。時々巡査が来て小言を云うが、すぐまた元のように人山が出来てしまう。皆、この橋の下を通る花見の船を見に、立っているのである。  船は川下から、一二艘ずつContinue reading… ひょっとこ

創作

創作 芥川龍之介  僕に小説をかけと云ふのかね。書けるのなら、とうに書いてゐるさ。が、書けない。遺憾ながら、職業に逐はれてペンをとる暇がない。そこで、人に話す、その人が、それを小説に書く。僕が材料を提供した小説が、これでContinue reading… 創作

悪魔

悪魔 芥川龍之介  伴天連うるがんの眼には、外の人の見えないものまでも見えたさうである。殊に、人間を誘惑に来る地獄の悪魔の姿などは、ありありと形が見えたと云ふ、――うるがんの青い瞳を見たものは、誰でもさう云ふ事を信じてゐContinue reading… 悪魔

トロツコ

トロツコ 芥川龍之介  小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まつたのは、良平の八つの年だつた。良平は毎日村外れへ、その工事を見物に行つた。工事を――といつた所が、唯トロツコで土を運搬する――それが面白さに見に行つたのでContinue reading… トロツコ

鼻 芥川龍之介  禅智内供の鼻と云えば、池の尾で知らない者はない。長さは五六寸あって上唇の上から顋の下まで下っている。形は元も先も同じように太い。云わば細長い腸詰めのような物が、ぶらりと顔のまん中からぶら下っているのであContinue reading…

芋粥

芋粥 芥川龍之介  元慶の末か、仁和の始にあつた話であらう。どちらにしても時代はさして、この話に大事な役を、勤めてゐない。読者は唯、平安朝と云ふ、遠い昔が背景になつてゐると云ふ事を、知つてさへゐてくれれば、よいのである。Continue reading… 芋粥

おぎん

おぎん 芥川龍之介  元和か、寛永か、とにかく遠い昔である。  天主のおん教を奉ずるものは、その頃でももう見つかり次第、火炙りや磔に遇わされていた。しかし迫害が烈しいだけに、「万事にかない給うおん主」も、その頃は一層このContinue reading… おぎん

杜子春

杜子春 芥川龍之介 一  或春の日暮です。  唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。  若者は名は杜子春といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を費ひ尽して、その日の暮しにも困る位、Continue reading… 杜子春

羅生門

羅生門 芥川龍之介  ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。  広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にContinue reading… 羅生門

あばばばば

あばばばば 芥川龍之介  保吉はずつと以前からこの店の主人を見知つてゐる。  ずつと以前から、 ― 或はあの海軍の学校へ赴任した当日だつたかも知れない。彼はふとこの店へマツチを一つ買ひにはひつた。店には小さい飾り窓がありContinue reading… あばばばば

蜘蛛の糸

蜘蛛の糸 芥川龍之介 一  ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とContinue reading… 蜘蛛の糸

宇治拾遺物語(巻三 六)038絵仏師良秀家の焼を見て悦ぶ事

 これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家の隣より火出で来て、風おし掩ひて責めければ、逃げ出でて大路へ出でにけり。人の書かする仏もおはしけり。また衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるをContinue reading… 宇治拾遺物語(巻三 六)038絵仏師良秀家の焼を見て悦ぶ事

宇治拾遺物語(巻三 十八)050平貞文本院侍従の事

 今は昔、兵衛佐貞文をば平中と言ふ。色好みにて、宮仕人はさらなり、人の女など、忍びて見ぬはなかりけり。思ひかけて文やる程の人の、なびかぬはなかりけるに、本院寺従といふは村上の御母后の女房なり。世の色好みにてありけるに、文Continue reading… 宇治拾遺物語(巻三 十八)050平貞文本院侍従の事

宇治拾遺物語(巻十一 六)130蔵人得業猿沢の池の龍の事

 これも今は昔、奈良に蔵人得業恵印といふ僧ありけり。鼻大きにて赤かりければ、「大鼻の蔵人得業」と言ひけるを、後ざまには、ことながしとて、「鼻蔵人」とぞ言ひける。なほ後々には、「鼻蔵、鼻蔵」とのみいひけり。  それが若かりContinue reading… 宇治拾遺物語(巻十一 六)130蔵人得業猿沢の池の龍の事