宇治拾遺物語(巻一 一)001道命阿闍梨和泉式部の許において読経し五条の道祖神聴聞の事

 今は昔、道命阿闍梨とて、傅殿の子に色に耽りたる僧ありけり。和泉式部に通ひけり。経をめでたく読みけり。それが和泉式部がり行きて臥したりけるに、目覚めて経を心すまして読みけるほどに、八巻読み果てて、暁にまどろまんとするほどContinue reading… 宇治拾遺物語(巻一 一)001道命阿闍梨和泉式部の許において読経し五条の道祖神聴聞の事

宇治拾遺物語(巻一 二)002丹波国篠村平茸生ふる事

 これも今は昔、丹波国篠村といふ所に、年ごろ、平茸やる方もなく多かりけり。里村の者これを取りて、人にも心ざし、また我も食ひなどして年ごろ過ぐるほどに、その里にとりてむねとある者の夢に、頭をつかみなる法師どもの二三十人ばかContinue reading… 宇治拾遺物語(巻一 二)002丹波国篠村平茸生ふる事

宇治拾遺物語(巻一 七)007龍門の聖鹿にかはらんと欲する事

 大和国に龍門といふ所に聖ありけり。住みける所を名にて龍門の聖とぞ言ひける。その聖の親しく知りたりける男の、明け暮れ鹿を殺しけるに、照射といふ事をしけるころ、いみじう暗かりける夜、照射に出でにけり。  鹿を求め歩くほどにContinue reading… 宇治拾遺物語(巻一 七)007龍門の聖鹿にかはらんと欲する事

宇治拾遺物語(巻一 十六)016尼地蔵見奉る事

 今は昔、丹後国に老尼ありけり。地蔵菩薩は暁ごとに歩き給ふといふ事をほのかに聞きて、暁ごとに地蔵見奉らんとて、ひと世界を惑ひ歩くに、博打の打ちほうけてゐたるが見て、「尼君は、寒きに何わざし給ふぞ」と言へば、「地蔵菩薩の暁Continue reading… 宇治拾遺物語(巻一 十六)016尼地蔵見奉る事

宇治拾遺物語(巻三 四)036山伏舟祈り返す事

 これも今は昔、越前国甲楽城の渡りといふ所に渡りせんとて、者ども集まりたるに、山ぶしあり。けいたう坊といふ僧なりけり。熊野、御嶽はいふに及ばず、白山、伯耆の大山、出雲の鰐淵、おほかた修行し残したる所なかりけり。  それにContinue reading… 宇治拾遺物語(巻三 四)036山伏舟祈り返す事

宇治拾遺物語(巻三 十二)044多田新発意郎等の事

 これも今は昔、多田満仲のもとに猛く悪しき朗等ありけり。物の命を殺すをもて業とす。野に出で、山に入りて鹿を狩り鳥を取りて、いささかの善根する事なし。  ある時出でて狩をする間、馬を馳せて鹿追ふ。矢をはげ、弓を引きて、鹿にContinue reading… 宇治拾遺物語(巻三 十二)044多田新発意郎等の事

宇治拾遺物語(巻三 十三)045因幡国別当地蔵造りさす事

 これも今は昔、因幡国高草の郡、さかの里に伽藍あり。国隆寺と名づく。この国の前の国司ちかなが造れるなり。そこに年老いたる者語り伝へていはく、この寺の別当ありき。家に仏師を呼びて地蔵を造らするほどに、別当の妻、異男に語らはContinue reading… 宇治拾遺物語(巻三 十三)045因幡国別当地蔵造りさす事

宇治拾遺物語(巻三 十四)046伏見修理大夫俊綱の事

 これも今は昔、伏見修理大夫は宇治殿の御子にておはす。あまり公達多くおはしければ、やうを変へて橘俊遠といふ人の子になし申して、蔵人になして、十五にて尾張守になし給ひてけり。それに尾張に下りて国行ひけるに、そのころ、熱田のContinue reading… 宇治拾遺物語(巻三 十四)046伏見修理大夫俊綱の事

宇治拾遺物語(巻四 三)055薬師寺の別当の事

 今は昔、薬師寺の別当僧都といふ人ありけり。別当はしけれども、ことに寺の物もつかはで、極楽に生まれんことをなん願ひける。  年老い、病して、死ぬるきざみになりて、念仏して消え入らんとす。無下にかぎりと見ゆるほどに、よろしContinue reading… 宇治拾遺物語(巻四 三)055薬師寺の別当の事

宇治拾遺物語(巻四 七)059三河入道遁世の間の事

 三河入道、いまだ俗にてありける折、もとの妻をば去りつつ、わかくかたちよき女に思ひつきて、それを妻にて、三河へ率てくだりけるほどに、その女、久しくわづらひて、よかりけるかたちもおとろへて、失せにけるを、悲しさのあまりに、Continue reading… 宇治拾遺物語(巻四 七)059三河入道遁世の間の事

宇治拾遺物語(巻四 十二)064式部大輔実重賀茂の御体拝見の事

 これも今は昔、式部大輔実重は賀茂へ参る事ならびなき者なり。前生の運おろそかにして、身に過ぎたる利生にあづからず。人の夢に、大明神、「また実重来たり、実重来たり」とて、嘆かせおはしますよし見けり。実重、御本地を見奉るべきContinue reading… 宇治拾遺物語(巻四 十二)064式部大輔実重賀茂の御体拝見の事

宇治拾遺物語(巻五 一)070四宮河原地蔵の事

 これも今は昔、山ばかりの道づらに、四宮河原といふ所にて、袖くらべといふ商人あつまる所あり。その辺に下種のありける、地蔵菩薩を一体造り奉りたりけるを、開眼もせで、櫃にうち入て、奥の部屋などおぼしき所におさめ置きて、世の営Continue reading… 宇治拾遺物語(巻五 一)070四宮河原地蔵の事

宇治拾遺物語(巻五 四)073範久阿闍梨西方を後にせざる事

 これも今は昔、範久阿闍梨といふ僧ありけり。山の楞厳院に住みけり。ひとへに極楽を願ふ。行住座臥、西方を後にせず。唾をはき、大小便西に向かはず。入日を背中に負はず。西坂より山へ登る時は、身をそばだてて歩む。常にいはく、「植Continue reading… 宇治拾遺物語(巻五 四)073範久阿闍梨西方を後にせざる事

宇治拾遺物語(巻五 十三)082山の横川の賀能地蔵の事

 これも今は昔、山の横川に、賀能知院といふ僧、破戒無慚の者にて、昼夜に仏の物をとり遣ふことをのみしけり。横川の執行にてありけり。政所へ行くとて、塔のもとを常に過ぎありきければ、塔のもとに、古き地蔵の、物の中に捨て置きたるContinue reading… 宇治拾遺物語(巻五 十三)082山の横川の賀能地蔵の事

宇治拾遺物語(巻六 一)083広貴、妻の訴へにより閻魔王宮へ召さるる事

 これも今は昔、藤原広貴といふ者ありけり。死して閻魔の庁に召されて、王の御前とおぼしき所に参りたるに、王宣ふやう、「汝が子をはらみて、産をしそこなひたる女、死にたり。地獄に堕ちて苦を受くるに、うれへ申すことのあるによりてContinue reading… 宇治拾遺物語(巻六 一)083広貴、妻の訴へにより閻魔王宮へ召さるる事

宇治拾遺物語(巻六 四)086清水寺に二千度参詣する者双六に打ち入るる事

 今は昔、人のもとに宮づかへしてある生侍ありけり。する事のなきままに、清水へ、人まねして、千度詣を二たびしたりけり。  その後、いくばくもなくして、主のもとにありける同じ様なる侍と双六をうちけるが、多く負けて、渡すべき物Continue reading… 宇治拾遺物語(巻六 四)086清水寺に二千度参詣する者双六に打ち入るる事

宇治拾遺物語(巻六 五)087観音経蛇に化し人を輔け給ふ事

 今は昔、鷹を役にて過ぐる者ありけり。鷹の放れたるをとらんとて、飛ぶにしたがひて行きけるほどに、はるかなる山の奥の谷の片岸に、高き木のあるに、鷹の巣くひたるを見付けて、いみじき事見置きたると、うれしく思ひて、帰りてのち、Continue reading… 宇治拾遺物語(巻六 五)087観音経蛇に化し人を輔け給ふ事

宇治拾遺物語(巻六 六)088賀茂社より御幣紙米等給ふ事

 今は昔、比叡山に僧ありけり。いと貧しかりけるが、鞍馬に七日参りけり。「夢などや見ゆる」とて参りけれど、見えざりければ、今七日とて参れども、なほ見えねば、七日を延べ延べして、百日といふ夜の夢に、「我はえ知らず。清水へ参れContinue reading… 宇治拾遺物語(巻六 六)088賀茂社より御幣紙米等給ふ事

宇治拾遺物語(巻六 七)089信濃国筑摩湯に観音沐浴の事

 今は昔、信濃国に、筑摩の湯といふ所に、よろづの人のあみける薬湯あり。そのわたりなる人の、夢にみるやう、「あすの午の時に、観音、湯あみ給ふべし」と言ふ。「いかやうにてかおはしまさむずる」と問ふに、いらふるやう、「年三十ばContinue reading… 宇治拾遺物語(巻六 七)089信濃国筑摩湯に観音沐浴の事

宇治拾遺物語(巻六 八)090帽子の叟孔子と問答の事

 今は昔、唐土に孔子、林の中の岡だちたるやうなる所にて、逍遙し給ふ。われは琴をひき、弟子どもは、ふみを読む。ここには、舟に乗たる叟の帽子したるが、船を葦につなぎて、陸にのぼり、杖をつきて、琴のしらべの終るを聞く。人々、あContinue reading… 宇治拾遺物語(巻六 八)090帽子の叟孔子と問答の事

宇治拾遺物語(巻六 九)091僧伽多羅刹国に行く事

 昔、天竺に僧伽多といふ人あり。五百人の商人を舟に乗せて、かねの津へ行くに、にはかに悪しき風吹きて、舟を南の方へ吹きもて行く事、矢を射るがごとし。知らぬ世界に吹き寄せられて、陸に寄りたるを、かしこき事にして、左右なくみなContinue reading… 宇治拾遺物語(巻六 九)091僧伽多羅刹国に行く事

宇治拾遺物語(巻七 五)096長谷寺参籠の男、利生に預かる事

 今は昔、父母も主もなく、妻も子もなくて、ただ一人ある青侍ありけり。すべき方もなかりければ、「観音助け給へ」とて長谷に参りて、御前にうつぶし伏して申しけるやう、「この世にかくてあるべくは、やがて、この御前にて干死にに死なContinue reading… 宇治拾遺物語(巻七 五)096長谷寺参籠の男、利生に預かる事

宇治拾遺物語(巻八 五)103東大寺華厳会の事

 これも今は昔、東大寺に恒例の大法会あり。華厳会とぞいふ。大仏殿の内に高座を立てて、講師上りて、堂の後よりかい消つやうにして、逃げて出でつるなり。古老の伝へていはく、「御寺建立のはじめ、鯖を売る翁来たる。ここに本願の上皇Continue reading… 宇治拾遺物語(巻八 五)103東大寺華厳会の事

宇治拾遺物語(巻八 七)105千手院僧正、仙人に逢ふ事

 昔、山の西塔千手院に住み給ひける静観僧正と申しける座主、夜更けて、尊勝陀羅尼を、夜もすがらみて明かして、年ごろになり給ひぬ。きく人もいみじく貴みけり。陽勝仙人と申す仙人、空を飛びて、この坊の上を過ぎけるが、この陀羅尼のContinue reading… 宇治拾遺物語(巻八 七)105千手院僧正、仙人に逢ふ事

宇治拾遺物語(巻九 三)108越前敦賀の女、観音助け給ふ事

 越前国に敦賀といふ所にすみける人ありけり。とかくして、身ひとつばかり、わびしからで過ぐしけり。女一人よりほかに、また子もなかりければ、このむすめぞ、またなきものにかなしくしける。「この女を、我があらん折、たのもしく見置Continue reading… 宇治拾遺物語(巻九 三)108越前敦賀の女、観音助け給ふ事

宇治拾遺物語(巻九 七)112大安寺別当女に嫁する男、夢見る事

 今は昔、奈良の大安寺の別当なりける僧の女のもとに、蔵人なりける人、忍びて通ふほどに、せめて思はしかりければ、時々は、昼もとまりけり。ある時、昼寝したりける夢に、にはかに、この家の内に、上下の人、とよみて泣きあひけるを、Continue reading… 宇治拾遺物語(巻九 七)112大安寺別当女に嫁する男、夢見る事

宇治拾遺物語(巻十 十)123海賊発心出家の事

 今は昔、摂津国にいみじく老いたる入道の、行ひうちしてありけるが、人の「海賊にあひたり」といふ物語するついでにいふやう、「我は、若かりし折は、まことにたのもしくてありし身なり。着るもの、食物に飽きみちて、明暮海にうかびてContinue reading… 宇治拾遺物語(巻十 十)123海賊発心出家の事

宇治拾遺物語(巻十一 七)131清水寺御帳給はる女の事

 今は昔、たよりなかける女の、清水にあながちに参るありけり。年月つもりけれども、露ばかり、そのしるしと覚えたることなく、いとどたよりなくなりまさりて、果ては、年ごろありける所をも、その事となくあくがれて、よりつくところもContinue reading… 宇治拾遺物語(巻十一 七)131清水寺御帳給はる女の事