宇治拾遺物語(巻一 三)003鬼に瘤取らるる事
これも今は昔、右の顔に大きなる瘤ある翁ありけり。大柑子の程なり。人に交じるに及ばねば、薪をとりて世を過ぐるほどに、山へ行きぬ。雨風はしたなくて、帰るにことよわりて、山の中に心にもあらず泊まりぬ。また木こりもなかりけり。 [...]
宇治拾遺物語(巻一 四)004伴大納言の事
これも今は昔、伴大納言善男は佐渡国郡司が従者なり。かの国にて、善男夢に見るやう、西大寺と東大寺とを胯げて立ちたりと見て、妻の女にこの由を語る。妻のいはく「そこの股こそ裂かれんずらめ」と合はするに、善男驚きて、「よしなき [...]
宇治拾遺物語(巻一 八)008易の占ひして金取り出す事
旅人の宿求めけるに、大きやかなる家の、あばれたるがありけるに、よりて、「ここに宿し給ひてんや」と言へば、女声にて「よき事、宿り給へ」と言へば、皆おりゐにけり。屋、大きなれども、人のありげもなし。ただ女一人ぞあるけはひし [...]
宇治拾遺物語(巻一 十八)018利仁芋粥の事
今は昔、利仁の将軍の若かりける時、その時の一の人の御許に恪勤して候ひけるに、正月に大饗せられけるに、そのかみは、大饗果てて、とりばみといふ者を払ひて入れずして、大饗のおろし米とて給仕したる恪勤の者どもの食ひけるなり。そ [...]
宇治拾遺物語(巻二 四)022金峯山薄打の事
今は昔、七條に薄打あり。御嶽詣でしけり。参りて、金崩れを行いて見れば、まことの金の様にてありけり。嬉しく思ひて、件の金を取りて、袖に包みて家に帰りぬ。おろして見ければ、きらきらとしてまことの金なりければ、「不思議の事な [...]
宇治拾遺物語(巻二 五)023用経荒巻の事
今は昔、左京の大夫なりける古上達部ありけり。年老いていみじう古めかしかりけり。下わたりなる家に、歩きもせで籠りゐたりけり。その司の属にて、紀用経といふ者ありけり。長岡になん住みける。司の属なれば、この大夫のもとにも来て [...]
宇治拾遺物語(巻二 六)024厚行死人を家より出す事
昔、右近将監下野厚行といふ者ありけり。競馬によく乗りけり。帝王より始めまゐらせて、おぼえ殊にすぐれたり。朱雀院の御時より村上帝の御時などは、盛りにいみじき舎人にて、人も許し思ひけり。年高くなりて西京に住みけり。 隣な [...]
宇治拾遺物語(巻二 十一)029明衡殃に合はんと欲する事
昔、博士にて、大学頭明衡といふ人ありき。若かりける時、さるべき所に宮仕へける女房を語らひて、その所に入り臥さんこと、便なかりければ、そのかたはらにありける下種の家を借りて、「女房語らひ出して、臥さん」と言ひければ、男あ [...]
宇治拾遺物語(巻二 十二)030唐卒都婆に血付く事
昔、唐土に大なる山ありけり。その山のいただきに、大きなる卒都婆一つ立てりけり。その山のふもとの里に、年八十ばかりなる女の住みけるが、日に一度、その山の峰にある卒都婆をかならず見けり。たかく大きなる山なれば、ふもとより峰 [...]
宇治拾遺物語(巻三 六)038絵仏師良秀家の焼を見て悦ぶ事
これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家の隣より火出で来て、風おし掩ひて責めければ、逃げ出でて大路へ出でにけり。人の書かする仏もおはしけり。また衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるを [...]
宇治拾遺物語(巻三 十六)048雀報恩の事
今は昔、春つかた、日うららかなりけるに、六十ばかりの女のありけるが、虫打ち取りてゐたりけるに、庭に雀のしありきけるを、童部石を取りて打ちたれば、当たりて腰をうち折られにけり。羽をふためかして惑ふほどに、烏のかけりありき [...]
宇治拾遺物語(巻三 二十)052狐、家に火つくる事
今は昔、甲斐国に館の侍なりける者の、夕暮れに館を出でて家ざまに行きけるに、道に、狐のあひたりけるを追ひかけて引目して射ければ、狐の腰に射当ててけり。狐、射まろばかされて、鳴きわびて、腰をひきつつ草に入りにけり。この男、 [...]
宇治拾遺物語(巻五 九)078御室戸僧正の事一乗寺僧正の事
これも今は昔、一乗寺僧正、御室戸僧正とて、三井の門流に、やんごとなき人おはしけり。御室戸の僧正は、隆家師の第四の子なり。一乗寺僧正は、経輔大納言の弟五の子なり。御室戸をば隆明といひ。一乗寺をば増誉と言ふ。この二人、おの [...]
宇治拾遺物語(巻六 九)091僧伽多羅刹国に行く事
昔、天竺に僧伽多といふ人あり。五百人の商人を舟に乗せて、かねの津へ行くに、にはかに悪しき風吹きて、舟を南の方へ吹きもて行く事、矢を射るがごとし。知らぬ世界に吹き寄せられて、陸に寄りたるを、かしこき事にして、左右なくみな [...]
宇治拾遺物語(巻七 一)092五色の鹿の事
これも昔、天竺に、身の色は五色にて、角の色は白き鹿一つありけり。深き山のみ住みて、人に知られず。その山のほとりに大きなる川あり。その山にまた烏あり。このかせきを友として過ぐす。 ある時、この川に男一人流れて、既に死な [...]
宇治拾遺物語(巻八 六)104猟師仏を射る事
昔、愛宕の山に、久しく行ふ聖ありけり。年ごろ行ひて、坊を出づる事なし。西の方に猟師あり。この聖を貴みて、常にはまうでて、物奉りなどしけり。久しく参りざりければ、餌袋に干飯など入れて、まうでたり。聖悦びて、日ごろのおぼつ [...]
宇治拾遺物語(巻十 九)122小槻当平の事
今は昔、主計頭小槻当平といふ人ありけり。その子に算博士なるものあり。名は茂助となんいひける。主計頭忠臣が父、淡路守大夫史奉親が祖父なり。生きたらば、やんごとなくなりぬべきものなれば、いかでなくもなりなん、これが出でたち [...]
宇治拾遺物語(巻十二 二一)157或る上達部、中将の時召人に逢ふ事
今は昔、上達部のまだ中将と申しける、内へ参り給ふ道に、法師をとらへて率て行きけるを、「こはなに法師ぞ」と問はせければ、「年ごろ使はれて候ふ主を殺して候ふ者なり」といひければ、「まことに罪重きわざしたるものにこそ。心うき [...]
宇治拾遺物語(巻十三 二)162元輔落馬の事
今は昔、歌よみの元輔、内蔵助になりて、賀茂祭の使しけるに、一條大路わたりけるほどに、殿上人の、車おほく並べたてて、物見ける前わたるほどに、おいらかにてはたわたらで、人み給ふにと思ひて、馬をいたくあふりければ、馬くるひて [...]
宇治拾遺物語(巻十三 五)165夢を買ふ人の事
昔、備中国に郡司ありけり。それが子に、ひきのまき人といふありけり。若き男にてありける時、夢をみたりければ、「あはせさせん」とて、夢ときの女のもとに行きて、夢あはせて後、物語してゐたるほどに、人々あまた声して来なり。国守 [...]
宇治拾遺物語(巻十三 十三)173清瀧川の聖の事
今は昔、清瀧川の奥に、柴の庵つくりて行ふ僧ありけり。水ほしき時は、水瓶を飛ばして、くみにやりて飲みけり。年経にければ、かばかりの行者はあらじと、時々慢心おこりけり。 かかりけるほどに、我がゐたる上ざまより、水瓶来て、 [...]
宇治拾遺物語(巻十五 十一)196後の千金の事
今は昔、唐に荘子といふ人ありけり。家いみじう貧しくて、今日の食物絶えぬ。隣に監河侯といふ人ありけり。それがもとへ、今日食ふべき料の粟を乞ふ。 河侯がいはく、「今五日ありておはせよ。千両の金を得んとす。それを奉らん。い [...]
声