竹取物語003)五つの難題-仏の御石の鉢

 日暮るるほど、例の集まりぬ。あるいは笛を吹き、あるいは歌をうたひ、あるいは唱歌をし、あるいはうそを吹き、扇を鳴らしなどするに、翁、出でていはく、「かたじけなく、きたなげなる所に、年月を経てものし給ふこと、極まりたるかしこまり」と申す。「『翁の命、今日明日とも知らぬを、かくのたまふ君達にも、よく思ひ定めて仕うまつれ』と申せば、『ことわりなり。いづれも劣り優りおはしまさねば、御心ざしのほどは見ゆべし。仕うまつらむことは、それになむ定むべき』と言へば、これよき事なり。人の恨みもあるまじ」と言ふ。五人の人々も、「よき事なり」と言へば、翁、入りて言ふ。
 かぐや姫、「石作の皇子には、仏の御石の鉢といふ物あり。それを取りて賜へ」と言ふ。「庫持の皇子には、東の海に蓬莱といふ山あるなり。それに銀を根とし、黄金を茎とし、白き珠を実として立てる木あり。それ一枝、折りて賜はらむ」と言ふ。「いま一人には、唐土にある火鼠の皮衣を賜へ。大伴の大納言には、竜の頸に五色に光る珠あり。それを取りて賜へ。石上の中納言には、燕の持たる子安の貝、取りて賜へ」と言ふ。翁、「難きことにこそあなれ。この国にある物にもあらず。かく難きことをば、いかに申さむ」と言ふ。かぐや姫、「何か難からむ」と言へば、翁、「とまれかくまれ、申さむ」とて、出でて、「かくなむ。聞こゆるやうに見せ給へ」と言へば、皇子たち・上達部聞きて、「おいらかに、『あたりよりだに、な歩きそ』とやはのたまはぬ」と言ひて、倦んじて、みな帰りぬ。 なほ、この女見では世にあるまじき心地のしければ、天竺にある物も持て来ぬものかは、と思ひめぐらして、石作の皇子は、心の支度ある人にて、天竺に二つとなき鉢を、百千万里のほど行きたりとも、いかで取るべきと思ひて、かぐや姫のもとには、「今日なむ、天竺へ石の鉢取りにまかる」と聞かせて、三年ばかり、大和の国十市の郡にある山寺に、賓頭盧の前なる鉢の、ひた黒に墨つきたるを取りて、錦の袋に入れて、作り花の枝につけて、かぐや姫の家に持て来て見せければ、かぐや姫あやしがりて見れば、鉢の中に文あり。ひろげて見れば、
  海山の道に心を尽くし果てないしの鉢の涙流れき
 かぐや姫、光やあると見るに、蛍ばかりの光だになし。
  置く露の光をだにも宿さましを小倉の山にて何もとめけむ
とて、返し出だす。鉢を門に捨てて、この歌の返しをす。
  白山にあへば光の失するかと鉢を捨てても頼まるるかな
と詠みて入れたり。かぐや姫、返しもせずなりぬ。耳にも聞き入れざりければ、言ひかかづらひて帰りぬ。かの鉢を捨てて、また言ひけるよりぞ、面なきことをば、「はぢをすつ」とは言ひける。
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