土佐日記01/17

 十七日。くもれる雲なくなりて、あかつき月夜いとおもしろければ、舟を出だして漕ぎゆく。このひだに、雲の上も海の底も、おなじごとくになむありける。むべも昔の男は「棹は穿つ、波の上の月を。船はおそふ、海のうちの空を」とはいひけむ。聞きざれに聞けるなり。また、ある人のよめる歌、
  水底の月の上より漕ぐ舟の棹にさはるは桂なるらし  
これを聞きて、ある人のまたよめる、
  影見れば波の底なるひさかたの空漕ぎわたるわれぞわびしき  
かくいふあひだに夜やうやく明けゆくに、楫とりら「黒き雲にはかにいで来ぬ。風吹きぬべし。御舟かへしてむ」といひて、舟かへる。このあひだに雨ふりぬ。いとわびし。
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