土佐日記01/18

 十八日。なほおなじ所にあり。海あらければ、舟出ださず。この泊り、遠く見れども近く見れども、いとおもしろし。かかれども、苦しければ、何ごとも思ほえず。男どちは、心やりにやあらむ、唐詩などいふべし。舟も出さでいたづらなれば、ある人のよめる、
  磯ふりのよする磯には年月をいつともわかぬ雪のみぞ降る  
この歌は、つねにせぬ人の言なり。また人のよめる、
  風による波の磯には鴬も春もえ知らぬ花のみぞ咲く  
この歌どもを、少しよろしと聞きて、舟の長しける翁、月日ごろの苦しき心やりによめる、
  たつ波を雪か花かと吹く風ぞよせつつ人をはかるべらなる  
この歌どもを人のなにかといふを、ある人、ききふけりてよめり。その歌、詠める文字三十文字あまり七文字。人みな、えあらで笑ふやうなり。歌主いと気色あしくて、怨ず。まねべどもえまねばず、書けりともえ読みすゑがたかるべし。今日だにかく言ひがたし。まして後にはいかならむ。
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