土佐日記01/26

 廿六日。まことにやあらむ、海賊おふといへば、夜なかばかりより舟を出だして漕ぎ来る道に、手向けするところあり。楫とりして幣たいまつらするに、幣の東へ散れば、楫とりの申してたてまつることは、「この幣の散るかたに、御舟すみやかに漕がしめたまへ」と申したてまつる。これを聞きて、ある女の童のよめる、
  わだつみの道触りの神に手向けする幣の追風やまず吹かなむ  
とぞよめる。このあひだに、風のよければ、楫とりいたく誇りて、船に帆上げなど、よろこぶ。その音を聞きて、童も女も、いつしかと思へばにやあらむ、いたくよろこぶ。この中に、淡路のたうめといふ人のよめる歌、
  追風の吹きぬる時はゆく船の帆手うちてこそうれしかりけれ  
とぞ。天気のことにつけて祈る。
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