宇治拾遺物語(巻五 十)079ある僧人の許にて氷魚盗み食ひたる事

 これも今は昔、ある僧、人のもとへ行きけり。酒など勧めけるに、氷魚はじめて出で来たりければ、あるじ珍しく思ひて、もてなしけり。あるじ用の事ありて、内へ入りて、また出でたりけるに、この氷魚の、ことの外に少なくなりたりければ、あるじ、いかにと思へども、いふべきやうもなかりければ、物語しゐたりけるほどに、この僧の鼻より、氷魚の一つ、ふと出でたりければ、あるじあやしう覚えて、「その鼻より氷魚の出でたるは、いかなる事にか」と言ひければ、取りもあへず、「この頃の氷魚は、目鼻より降り候ふなるぞ」と言ひたりければ、人皆、「は」と笑ひけり。
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