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春の夜の夢ばかりなる
  手枕に
    かひなく立たむ名こそ惜しけれ

Your arm as my pillow?... I think I'll have to sleep on it.
Spring frolic will fly away, flirting name is here to stay.
So, why not spare your arm, much as I will my name?

『小倉百人一首』067
はるのよの ゆめばかりなる たまくらに
 かひなくたたむ なこそをしけれ
周防内侍(すはうのないし)
女性(c.1037-c.1109)
『千載集』雑上・九六四
「枕はどこ?」と言った私に、
「よければ、どうぞ」と腕枕を差し出すあなた
・・・ですが、短い春の夜の夢のように
すぐにも醒める仮寝のために、
(かひな)を貸してくれたあなたと私の間に、
実体もない(かひなき)恋の浮き名が
立ってしまったとしたら、
それは残念なこと・・・でしょう?
【文法・修辞法】掛詞+縁語+係り結び
...modern Japanese/English part: Copyright(C) fusau.com 2009
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品詞分解
はる【春】<名>
の【の】<格助>
よ【夜】<名>
の【の】<格助>
ゆめ【夢】<名>
ばかり【ばかり】<副助>
なる【なる】<助動_断定>連体形
たまくら【手枕】<名>
に【に】<格助>
 かひなく【】<形ク>連用形・・・「甲斐無く」
 かひな【】<名>・・・「腕」
たた【立た】<自タ四>未然形
む【む】<助動_推量>連体形
な【名】<名>
こそ【こそ】<係助>
をしけれ【惜しけれ】<形シク>已然形・・・「こそ」との係り結び



修辞法
掛詞
<かひな>
1)「甲斐なく」
2)「腕」
縁語
<夢>
(春の夜の)「夢」(ばかりなる)・・・(手)「枕」につながる(・・・実際に寝て見る「夢」なら「枕」に直結してしまうので、縁語にならないが、「夢のようにい」の意なのでうじて縁語になる)
解題
 ここは春の二条院。月明かりの下、宮仕えの女房たちは、物語に興じての夜更かしの末に、そろそろ眠い時間を迎えています。優雅なる宮人たち(男性です)と女房たちとで過ごす夜は、広いお部屋の片隅で、思い思いに寝るのです。個室に引き籠もって楽しいひそひそ話の続きをする男女もいるけれど、そうした特別な夜の延長戦をしにどこかへ消える人たち以外は、仲良しの猫ちゃんたちか、修学旅行の高校生の団体みたいに、のんきで優雅な雑魚寝洒落込むのです。
 色恋色濃い平安中期の貴人たちの邸宅内とはいえ、少なくとも衆人環視雑魚寝部屋の中でだけは、男性諸氏もそれなりにお行儀が良かったようです・・・けど、大人の男と女が、同じ部屋の中のすぐそばで寝るのですから、一応「御簾」と呼ばれる略式の間仕切りだけは置いてあります。そんな中、「枕が欲しいわ・・・」とく女性の声を聞いて、御簾の向こう側から「ぬーっ」という感じで腕を差し入れて来たのは、藤原忠家さんという男性・・・「それなら、私の腕枕を貸してあげましょう」というわけで、「よろしかったら、別のお部屋で、二人一緒に寝ましょうか」という謎掛け、でもあるのでしょうね、これ。
 貴女なら、どう受けますか、この腕枕
 この歌の作者は、こう受け流してその場を切り抜けました:「まぁ、ご親切に腕枕、ですか・・・でも、ご遠慮しておきますわ。だって、軽々しくお借りしてあなたの腕の中で寝たりしたら、後で浮き名が立つでしょう?それも、春の夜の夢みたいに、短く儚い束の間の恋の噂が・・・そんな浮ついた評判が立ったら、お互い、自分の名前に傷が付くでしょうから、ここは貴方のお気持ちだけいただいて、お礼にこの歌を、さしあげます」・・・
 「春の夜の夢」は短く儚いものの象徴。「夢ばかり」という形で、実際の「夢」とは違う比喩的な使われ方をしているので、後続の「枕」との間で、「夜・寝」の連想でつながる「縁語」になります。「かひなく」は「甲斐なく=実りもなく・無意味に」と「かひな=腕」の掛詞迂闊に相手の男性の誘いに乗って、その腕枕に頭を乗せてしまえば、その結果として立つことになる(「手枕"に"」の格助詞がその原因を表わします)浮き名が「かひなし・・・あまり実のある嬉しい評判にはならない」という訳です。ずいぶんいろんな言葉のを、さりげなく織り込んだ上品なお断わり文句・・・しかもこれ、即興歌なんです。スゴい!見事の一言です。相手の気持ちも名誉も傷つけず、自分の名前も(女性としての誇りとかいろんなものも)つけず、乙女のピンチを歌詠みのチャンスに転じて、彼女はさぞや、名を上げたことでしょう。
 彼女の名は「周防内侍」。父親(平棟仲)が「周防守」で自分が「内侍司」に務めていたのでこの名前なのですが、「内侍」と名の付く女性には、こうした当意即妙の機知の人が多かった・・・というか、そういう才覚がなければ務まらない役職だった、というほうが正しいでしょう。「内侍司」というのは後宮十二宮と呼ばれる役所の一つで、その仕事は「天皇の近くに常に控え、謁見する者達との取次役を務める」というもの・・・係は全員、女性でした。採用の条件が目に浮かぶようですね:「容姿端麗性格温厚博学博識当意即妙・・・」。
 こんな素敵な歌を即興ですっと詠んでしまう周防内侍という人は、内侍みたいな女性だったんでしょうね、きっと。彼女の生きた時代(1037頃-1109頃)は、平安時代の安定期。和泉式部・紫式部・清少納言・赤染衛門ら、女流文学の大輪の花が咲き誇った「一条帝(第66代:980-1011)」の時代からほぼ半世紀後、「後冷泉天皇(在位:1045-1068)・後三条天皇(在位:1068-1073)・白河天皇(在位:1073-1087)・堀河天皇(在位:1086-1107)」の四代にって内侍として宮中にあった女性です。この宮仕え期間(とその長さ)から、周防内侍は、あの『栄花物語』続編(全10巻)の筆者(の一人)ではないかと言われています。彼女以外には「出羽弁」という女性をも作者とする説がありますが、いずれにせよ「宮中に長く仕え、文筆能力に優れ、如何なる状況でも美しく切り抜けてしまう才知と穏やかな性格の持ち主・・・の女性」という条件を満たしていないと、あの才女赤染衛門が書いたという『栄花物語』(正編)の後継者にはなれません・・・周防内侍は、この歌一首だけでも、十分その資格者だったろうという気がします。
 この歌を平安末の『千載和歌集』(1188)に入れた藤原俊成は、既に崩壊の最終段階にあった貴族社会の中から、まだ雅びなる歌のやりとりが貴族の日常を彩っていた一世紀も昔の宮中の情景を、どんな思いで見ていたのでしょうか。
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