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なげけとて月やは物を
  思はする
    かこち顔なる我が涙かな

Is the moon to blame for my moody face and tears?
Though I know it's not, I don't know why it looks so cold.

『小倉百人一首』086
なげけとて つきやはものを おもはする
 かこちがほなる わがなみだかな
西行法師(さいぎゃうほふし)
男性(1118-1190)
『千載集』恋五・九二九
私に悲しい思いをさせようと、
月が意地悪しているのだろうか?
私の物思いは、月の光のいたずらだろうか?
そんなことはあるまい・・・
あるまいけど、わけもなく流れる私のこの涙は、
いったいどうしたことだろう?
お月様のせいみたいにして、
みがましい顔で夜空をめてしまうこの気持ちは、
何なんだろう?
【文法・修辞法】係り結び
...modern Japanese/English part: Copyright(C) fusau.com 2009
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品詞分解
なげけ【嘆け】<他カ四>命令形
と【と】<格助>
て【て】<接助>
つき【月】<名>
や【や】<係助>
は【は】<係助>
もの【物】<名>
を【を】<格助>
おもは【思は】<他ハ四>未然形
する【する】<助動_使役>連体形・・・「や」との係り結び
かこちがほなる【託ち顔なる】<形動ナリ>連体形
わ【我】<代名>
が【が】<格助>
なみだ【涙】<名>
かな【かな】<終助>
解題
 「さぁ、悲しがるがよい」と「月が私に物思いをさせる」なんてことがあるだろうか・・・ありはしない・・・けど、まるで「あんたのせいだ」とでも言わんばかりに涙を浮かべて月をめてしまう、この私の心情は何なんだろう。・・・「月」の光の持つ不思議な憂愁誘引作用を詠んだものとみればこうした解釈となり、この歌には普遍的な叙情性の陰影が宿ります。
 一方、「月が私に"嘆け"と言う訳がない・・・のだから、私の嘆きの涙の原因は他にある・・・何のせい?・・・誰のせい?・・・あなたのせい、ですよ」という迂遠なる解釈がお好みならば、この歌は「新古今調」を喜ぶ人々(のみ)が喝采する理知的な恋歌となり、その普遍性は薄らいでしまいます。
 ・・・あなたは、どちらの解釈がお望みでしょうか?
 和歌の世界に於いて、女流歌人の大天才が和泉式部なら、男性歌人最大の巨星はこの86番歌の作者、西行でしょう。
 俗名佐藤義清(現代にもいそうな名前ですね)。鳥羽上皇を警護する北面の武士を辞して二十三歳で出家して「西行」と名乗り、源平動乱真っ直中の平安末の日本の国を、東は奥州、西は四国と、花鳥風月愛で、人の心の機微を詠み込んだ歌を作りつつ行脚して回りました。現存する歌は実に二千九十余り。歌の良さもさることながら、その諸国行脚の遍歴も手伝って、伝説の歌人となりました。
 その西行法師、出家して仏門に入ったからには、俗世の感情は捨てて生きねばならぬはずなのに、なぜ叙情詩などを?・・・と安直な分類学で事を割り切ろうとするのは、勉強させられ過ぎの現代日本人の悪い癖で、現象面の上っ面で回しただけで解った気になっては次の現象の皮相的処置に向かう、という、病める現代日本の大病院の三分間診療みたいなインスタント勉強法で身に付いた短絡的思考法では、平安末から鎌倉期にかけての出家の実情は、何も見えません。
 土を耕してその収穫で生きて行く、という実りある人生を生きるお百姓さんならともかく、農家の中でも長男以外で家計のたしになるよりむしろ圧迫になると感じられた男子だの、もう少しましな暮らしができそうな武士・貴族であっても貧乏な家の者や第一線を外れた者だのには、社会の本流の中にその生き場がないのが当時の悲しい現実。そんな彼らの行き場のない存在を引き受け、落ちこぼれた人々の溜め池としてこれを受け入れたのが、仏門という名の社会扶助制度だったのです。
 そんなわけで、平安末期あたりの人々は、心の平安や衆生の救済を求めて仏門に入る、というよりも、社会の主流から弾き出されてしまったのでやむを得ず法師になった、という色彩がかなり濃いのです。少なくとも、キリスト教の伝道者としてストイック己れを律した西欧の宣教師と日本の法師を同列に置いて捉えるのは大間違いのもとです・・・そんな「**法師」の歌には、俗世にある人々のそれよりむしろ、やりきれず持て余した心の叫びが満ち溢れています・・・当然でしょう:「法師」とは、満たされぬ人生を歩まざるを得なかった人の名に付く哀しき称号(・・・「不如意」の類義語・・・)と言っても満更外れでない現実が、当時はあったわけですからね。
 この西行の歌、詞書によれば「月前恋」の題で詠まれたものだそうですが、これを「恋」の歌とだけ解釈するのも少々味気ないと思います(『千載集』では確かにそうなっているし、それはそれで正しいのだけれど・・・)。この歌の中の「物思ひ」は「恋慕」よりも遙かに普遍的な「憂愁」を含み得るのだから、そこを重視していっそのこと「恋」の部立てから外してしまう、というようなな計らいを、編者の藤原俊成さんにはしてもらいたかったなあ、これが「恋」という狭い枠組みに閉じこめられてしまうのは惜しいなあ、と(私は)思うのだけれど・・・俊成氏は、迂遠な表現技巧を大喜びする「新古今」時代の代表的歌人なのだから、やっぱり「月の陰に隠れて見えない、つれない女性の影」をこそ愛おしがった訳でしょうね・・・まぁ、彼が何を思おうが、我が何を感じるか/我が何を言おうが、あなたがどう感じるか、ただそれだけが歌の大事、ではあるのですけれども。・・・え?「恋」じゃないとしたら部立ては何にするのか、ですって?・・・そうですね、「」じゃやっぱり味気ないし、「秋」に限った心情でもないから・・・そう、「」、かな。(「月」でもいいけど)。そんな部立を持つ勅撰集はないけど、そこはそれ、歌は当人の心の見立てで味わうものですから。
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