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花さそふ嵐の庭の
  雪ならで
    ふりゆくものはわが身なりけり

Wind-induced snow of flowers timelessly white in spring
Might be pleasant to see, but well, whiter still is my hair
Reduced in volume with the passage of time,
No spring ever visits me again.

『小倉百人一首』096
はなさそふ あらしのにはの ゆきならで
 ふりゆくものは わがみなりけり
藤原公経(ふぢはらのきんつね)
aka.西園寺公経(さいおんじきんつね)
aka.前太政大臣入道(さきのだいじゃうだいじんにふだう)
男性(1171-1244)
『新勅撰集』雑一・一〇五二
春の嵐は、桜花に誘いかけて、
時ならぬ雪のような桜吹雪を庭に散らすもの
・・・だが、雪のように「降る」のが
綺麗な桜の花びらならばまだよいけれど、
年齢的に「びる」ばかりの私の身の上は、
何ともやりきれないものだなあ。
【文法・修辞法】掛詞
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品詞分解
はな【花】<名>
さそふ【誘ふ】<他ハ四>連体形
あらし【嵐】<名>
の【の】<格助>
には【庭】<名>
の【の】<格助>
ゆき【雪】<名>
なら【なら】<助動_断定>未然形
で【で】<接助>
 ふり【】<自ラ四>連用形・・・「降り」
 ふり【】<自ラ四>連用形・・・「古り・旧り」
ゆく【行く】<自カ四>連体形
もの【もの】<名>
は【は】<係助>
わ【我】<代名>
が【が】<格助>
み【身】<名>
なり【なり】<助動_断定>連用形
けり【けり】<助動_詠嘆>終止形



修辞法
掛詞
<ふりゆく>
1)(雪が)「降り行く」
2)(我が身が)「古り行く」
解題
 この歌を読み解く鍵は「掛詞」と「見立て」の二つである。
 まずは「白いもの」の見立て:「花」「雪」そして「白髪」の三点セットを最初に押さえておこう。
 「花さそふ嵐の庭」は、文字通りに読んでよい:「春の嵐が庭に吹くと、桜の花びらが吹雪のように空中に舞い散る」の図である。その直後に、先程の「見立て」が生きてくる:「嵐の庭の雪」は、当然、冬に降る本物の「雪」ではなく、「雪」に見立てた「桜吹雪」のことである。その「花吹雪」を、空から「"降る"雪」に見立てる技法は、『古今集』(905)以来の使い古された修辞法。この歌が詠まれた鎌倉初期の貴人なら、誰でも知っている陳腐な常識である。ここではそれを逆手に取って、この詠み手はこう続けている:「冬の空に"降る"白い雪のように、庭に舞い飛ぶ桜吹雪の真っ白い情景・・・というのは、皆さん御存知の伝統的な美景・・・それなら、綺麗で、いいのにねぇ・・・そうじゃないのさ、ここでの白いやつは・・・年を"経る"ごとに白くなる、びしい私の白髪頭の白さ、なんだから、寂しいねぇ」・・・そう言って、この人、居合わせた人達の笑いを誘っているのである。
 「ふる」を「(雪・花吹雪が)降る」から「(私が年を)経る」へと「掛詞」で移し替える技巧自体はありふれているが、これは、同時進行の「白」の縁でつながる「雪」・「花」に土壇場で加わる「白髪頭」の「見立て」との相乗効果を生み、「陳腐」と形容できるほどに誰もが熟知している「雪/花」の見立てを、最後の最後で意外な形で引っ繰り返すことで、独特な味を出すことに成功している。「陳腐」とタカをって油断して聞いていた人々の思い込みを前提とした、手品のような変わり身を演じているのである。
 この歌を「老境の悲しみを詠んだ歌」と見ることが出来ぬでもないが(というか、字面だけ見ればそうとしか見えぬであろうが)、筆者はそうは取らない:それでは面白味に欠けるから。この歌は、「なぁーんだ、有り触れてるー、言い古された、"雪"と"花"の"白"の見立てかよ・・・」と、途中まで満座の人々のシラケを誘っておいて、最後に「・・・と思うでしょ?残念でした、ここでの白は、侘びしい老人の白髪頭なりけりーぃっ!どう?意外なオチでしょ?」というドンデン返しの味(関西弁で言う"イチビリ"風味、歌学用語では"俳諧趣味")を添えて読まないことには ― 古歌慣れした歌詠み/歌読みの肥えた舌には ― ちっとも美味しくならないのである。
 技巧歌、というよりは、ちょっとした思い付きで詠んでみせた感が強く、飾らぬ機転が「あはれ」よりむしろ「をかし」の感を誘うこの飄逸な歌の作者は、藤原公経(1171-1244)。鹿苑寺(現 金閣寺)の近くに「西園寺」を建立したことから、一般には「"西園寺"公経」と呼ばれる。
 鎌倉幕府の開祖の源頼朝(1147-1199)の妹の夫である一条能保の娘を妻としていた縁で、公経は元々、鎌倉幕府との関わりが深かった。後鳥羽上皇・順徳上皇らによる倒幕計画「承久の乱」(1221)に際しては、一時幽閉の憂き目を見るものの、決起直前にその情報を鎌倉方に流して乱の収拾に貢献。その功績を評価されて朝廷では太政大臣(従一位)にまで昇進。1226年には、三代将軍実朝(1192-1119)が暗殺されて頼朝嫡流の将軍が断絶した後7年間の空位期間を経て、公経の外孫の藤原頼経が(僅か8歳にして)鎌倉幕府四代将軍となる。名ばかりの傀儡将軍とはいえ、その外祖父としての公経の鎌倉方に対する権威は格段に上がり、京都の朝廷と鎌倉幕府との連絡役「関東申次」として両勢力の調整に大活躍(以後、鎌倉時代を通じてこの役は西園寺家の世襲となる)、孫娘の姞子後嵯峨天皇の中宮となり(以後、天皇の中宮西園寺家から出すのが慣例となる)、西園寺家興隆のを築いた末に、激動の時代を見事泳ぎ渡ったこの「一条入道太相国」は、73年の充実した生涯を閉じた・・・「ふりゆくものはわが身なりけり」の歌に哀感が伴わないのも、むべなるかな、である。
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